2019/05/17号 産経デジタル iRONNA掲載記事アーカイヴ(写真、筆者撮影八景島に展示されていた模型)
政治的思想や信条を分類する言葉には、保守や革新、リベラル、共産主義などいろいろあるが、近年インターネット上では、「ネトウヨ」(ネット右翼)という言葉も頻繁に目にする。私のツイッタータイムライン(フォローした相手のツイートが順番に表示されてくる画面)に流れてくるつぶやきの中にも、ある国会議員のこんな記述があった。
NHKの受信料不払いの呼び掛けや、私のことを「ネトウヨ」と批判していた(中略)人物がNHKの現職ディレクターではないかとのご指摘を頂きましたが、さすがにNHK現職ディレクターがそんなことはしないのではないでしょうか。もしそうだとしたら驚きです
(2018年6月24日 和田政宗氏公式ツイッターより)
なにげなく私のタイムラインに流れてきたこのツイートを初めて見たとき、私もこの「ネトウヨ」という表現に、侮辱的なニュアンスを感じたのと同時に、「なんだかな〜」という妙な違和感を覚えた。
何でもネトウヨ(パヨ)認定
この「ネトウヨ」という表現でこれまでに何か問題が起きていないか、どんな人が使うのか、興味が湧きグーグルで検索してみた。すると、ネットやサイトから削除された記事を半永久的に保管する「ネット・アーカイブ」という場所で、現在は東京新聞のサイトから消されている2015年11月の記事を見つけた。要約すると、およそ以下のような内容であった。
見出しは「報道部長が暴言ツイート 新潟日報、弁護士に謝罪」。新潟日報の報道部長が自身のツイッターで、新潟水俣病3次訴訟の原告側弁護団長を務める弁護士に向け、「ネトウヨの**弁護士」「弁護士やめろ」などと投稿した。中傷された弁護士がツイッターの投稿者を特定したところ、報道部長が投稿を認め、弁護士に謝罪したという。
このような事例から見ても、「ネトウヨ」とは、単なる政治的思想や信条の分類を示す単語ではなく、形容詞的な強い侮蔑の意味合いを含んだ表現であるということが分かる。
この言葉をいたずらに組み込んでムーブメントに悪用したのが「ネトウヨ春のBAN祭り・夏のBAN祭り・秋のBAN祭り―アットウィキ」(以下「ネトウヨBAN祭り」と言う)であり、数カ月の間に、一般人から著名人までの数々のウェブサイト、動画アップロードサイトのユーチューブやフェイスブック、ツイッターなどのあらゆるアカウントが凍結(削除)、いわゆる「BAN」されるという社会問題が起こったのだ。
実は、私自身はそんなムーブメントがネットに存在することは全く知らず、このネトウヨBAN祭りを知ったのは、昨年10月で、事務所のスタッフから「おー有名になったなあ…小西もネトウヨ人物辞典に載ってるよ」と言われたからだ。
スタッフから聞いたアドレスをのぞいてみると、タイトルは「ネトウヨ春のBAN祭り・夏のBAN祭り・秋のBAN祭り―アットウィキ」となっており、 「アットウィキ」という名の示す通り、いわゆるウィキペディアのような百科事典風のページになっていた。
現在、当該ページは「アットウィキ」のサーバー管理運営会社によって削除・凍結されており、いわゆる祭りの後で、昨年11月ごろはウェブキャッシュに残っていたが、現在は閲覧できない。
ただ、当時はこのページの左側中段以降に人物辞典があり、さまざまな人物名が掲載されていた。その中の「か行」に私の名前も載っていたのだ。この人物辞典のか行をざっと眺めてみると、
ケント・ギルバート
アメリカ人弁護士、タレント。かつて日本のバラエティ番組で活躍していた外国人タレントであったが、語学学校経営の失敗やマルチ商法の広告塔などを経て、ビジウヨに転向した。
小池 百合子(こいけ ゆりこ)
東京都知事、元環境・防衛大臣。都民ファーストの会創設者。
2018年にオリンピックへの対応を理由として都道府県単位では初となるヘイトスピーチ規制条例を都議会へ提案し、賛成多数で可決・成立した。一方で知事選挙の公約に「韓国人学校への都有地提供の白紙撤回」を掲げたり、関東大震災でデマに基づくジェノサイドの犠牲者となった朝鮮人の慰霊集会において歴代の東京都知事が慣例的に行っていた知事挨拶文の送付をとりやめたことがヘイトではないかと批判を受けている。
引用:ネトウヨ人物辞典(削除済み)
などといった面々が列挙され、その下方に自分の名前を発見したのだが、どういうわけか私の名前と紹介文だけがかなり侮辱めいた表現だったのだ(笑)。
小西 寛子(こにし ひろこ)
元声優。NHKの長寿アニメ『おじゃる丸』で主人公のおじゃる丸役を務めていたが、突然の配役交代を経て表舞台から姿を消した。 その後、ツイッターで「おじゃる丸出演時に収録した音声を無断でキャラクター商品に転用された」と主張し、NHKバッシングで利害が一致するネトウヨ界隈へ急速に接近しているが、元ファンの諫言にはまるで耳を貸さずブロック芸を炸裂させるため呆れられている。
引用:ネトウヨ人物辞典(削除済み)
これを見て怒りが込み上げてきたが、クールダウンの時間をはさんだ後、ドメイン情報やら管理者情報を調べ、それら情報と共に運営会社の企業情報などを確認し、私は1通のメールをサーバー運営会社に送った。するとその翌日、ネトウヨBAN祭りのすべてのページが凍結されていたのだ。
理由と根拠、適法な手続きは最大の武器である
私がネトウヨ秋のBAN祭りのページについて、侵害情報の削除申請をしたのは昨年10月29日午後6時ごろ。その後、実際に削除されたのは10月30日午後2時ごろだ。
これは私に返信されたサーバー運営会社の内容を確認し、ネトウヨBAN祭りアドレスをクリックすると既に凍結されていて気がついた。ほっとしたのと同時に少し驚いた。何に驚いたかというと、私のことが書いてある人物辞典だけでなく、紐づいた項目が全て凍結されていたからだ。
考えられることの一つは、「ネトウヨ」という侮蔑を含む表現を用いて、客観的事実に基づかない単なる憶測で、ある種のレッテルを貼られたことによる社会的評価の低下ないしその恐れに対する送信防止措置だろう。
私は削除申請を出したことをツイートなどで公表はしていない。ところが、私がアットウィキへツイートしたのを見て、運営会社に何らかのメールを送ったことに気がついた人がおり、その後にアットウィキへ感謝のツイートをしている一連の私の行動の前後関係をつなげて、「ネトウヨBAN祭りが凍結」された事実をツイートする人がいた。ネット社会はつくづく怖いと感じた。
そもそもこうした申請をしても、これほど早い対応は極めて稀(まれ)なことだ。では、一体私はどんな手続きを使ったのか。
事務所スタッフによると、インターネット上の掲示板に「アットウィキは削除申請のルールがあり郵送でなければ申請を受け取ってもらえない。メールなどでは当然受け取ってもらえないのになぜ?」と書かれていたそうで、「こんなに早く消されることはこれまでない」などの書き込みもあったようだ。
やり場をもとめて膨らむ想像
さらには、「異例の対応」だとか「有名人だから運営が早く対応した」、「弁護士がやったからだ」などいろいろな憶測が語られたようだが、私は浅学ながら法律の知識が多少あり、会社の法務(音楽芸能とは別の会社)などで培った実務のノウハウと、事務所スタッフにも著作権をはじめとする法務のプロがいる。
今回のようなケースであえて外部の弁護士に依頼する必要もない。ただ、内容や表現方法の違法性を運営会社にもれなく指摘しただけだ。
今から3年ほど前の事件だが、ツイッターやインターネット掲示板に私を中傷する書き込みをした自称アニメライターの男が名誉毀損罪で起訴され、有罪になった事件がある。
「おじゃる丸」の声優、小西寛子さんをネットで中傷 容疑の男性を書類送検(現在リンク切れ)新聞掲載紙面掲載のみ
平成27年4月末ごろから、短文投稿サイト「ツイッター」やインターネットの「まとめサイト」などに「元声優の小西寛子、ネット訴訟で損害賠償をせしめようとする」「NHKに高額なギャラを要求しておじゃる丸を干された」といった中傷の書き込みがあるのを事務所関係者が発見。
「おじゃる丸」声優をネットで中傷 相模原市の男に罰金10万円(現在リンク切れ)新聞掲載紙面掲載のみ
この事件は、自称アニメライターの45歳の男(当時)が、小西寛子が「仕事を干された」「高額のギャラを要求した」「引退した」「元声優」などと名誉を毀損する表現を含む記事を、ツイッターおよびインターネットブログや掲示板、アニメ声優情報アカウント、そしてなんとアマゾンの小西寛子のダウンロード音楽の商品各レビューなどに至るまで多数投稿・書き込みをし、長期にわたり私の名誉・信用を毀損していたというものだ。
「元声優」表現のなにが法に触れるのか?
先に紹介した人物辞典の記述の中にも「元声優」という表現がある。元声優の何が悪いんだ? と思う人もいるかもしれない。ところが、私に対するこの「元声優〜」という表現は、ある意図をもって20年近く用いられているものであり、これは私だけの問題に止まらず、業務の性質によっては死活問題になりうるものだ。
元横綱、元職員、元裁判官…「元」というのは、現在はその職を離れている人、いわゆる引退をした人などの肩書きに付される接頭辞だ。つまり、私は引退宣言もしていないのに、20年近くも、「過去の人」にされていたことになる。
自称アニメライターの男が投稿するとき、執拗に「元声優」を用いることで分かるように、「元」と表記することによって、「引退したイメージを抱かせ、仕事のオファーがいかないように仕向ける」ことができる。
これと同時に、NHKのアニメおじゃる丸の降板に関して、「高額のギャラを請求して降板させられた」という虚偽の事実をもってあたかも問題児であるかのように仕立て、社会的評価や信用を低下させる書き込みを行うことで、事実上の引退に追い込み、「元声優」というイメージを定着させていくのだ。
実際、この男は多重のアカウント(かなりの数の複数アカウント)を巧みに使い分け、自ら書いた記事などの信憑性を演出し、執拗に嫌がらせをしていた。
とどのつまり「元声優」という記述が凍結の決め手なのかというと、単純にそうとまでは言えず、記事の凍結(削除)はサーバー運営者の権限なので、実際のところ、どういう基準を引いて、またどのタイミングでこれを行ったのか分からない。
ただ言えるのは、送信防止措置などは、相手の自由な言論を制限するものであり、公益性や急迫性の有無、競合する権利との比較衡量など、それなりのハードル(要件)がある。
いずれにしても、その判断は当然慎重であるべきだが、やはり情報を発信する側の行為が容易なことに比べ、風評などの拡散により侵害を受ける側の被害は甚大であり原状回復は不可能なので、送信防止措置は、まずは被害者保護の実現を第一義に、迅速性を担保するべきだと思う。今回の件に関しては、私が送付したメールの趣旨を、サーバーの運営会社が正しく理解して適正に判断したのだろう。
それにしても「こんな急速凍結はおかしいじゃないか!」との懐疑的な意見もあるが、別に特別扱いをされているわけではない。私は、幸か不幸か、先に述べた事件を含め、民事やその他司法行政機関による名誉毀損に関する認定もしくは判断された事実と公的文書を複数持っている。
ゆえに、これらに該当する名誉毀損の書き込みが不特定多数に閲覧可能な状態であった場合、送信防止措置の手続きにおいて違法状態を証明する事実の提示が比較的容易だったのだ。
また、名誉毀損の具体的な内容もニュースや新聞記事になっているので公知の事実に近いため、措置を講ずる運営側も「リスクが少なく判断がしやすいので迅速な対応ができる」という、微妙な事情があるのだ。
うらやましい? とんでもない! このアイテムを手に入れるのにどれほど苦労したことか! 刑事告訴も含めすべて本人訴訟であり、それは長い道のりだった。法実務の勉強と人生における有益な経験となったので結果オーライではあるが…。
さて、削除申請の話はこのくらいにして、なぜBAN祭りが凍結されたのかというと、一つには、先に述べた通り、名誉毀損表現や侮辱表現が含まれていたからだが、そもそも、私はツイッターでもインターネットでも、もちろんテレビでも一切政治的思想や信条を公表していない。
「文字だけが一人歩きする」という、想像力が必要な世界
私の政治的意思決定や思想などは内心のものであり、誰かがこれを強制することはできない、他人が私に対してレッテル貼ることはできないはずだ。
冒頭でも述べたが、「ネトウヨ」という呼び方は、各種のウェブ辞典やウィキペディアなどにも書かれているように「バカにした表現」であることなどから、特定の人物を指して「ネトウヨ」と呼ぶことは、その言葉の形容的意味合いを考慮すると、明らかに侮辱であると容易に判断できるだろう。
そして、私に限らず人物辞典をあ行〜わ行の最後まで眺めてみると、「ネトウヨ」というレッテル貼りの表現だけでなく、その他たくさんの侮辱表現と取れる名誉毀損表現が散見される。
ネトウヨBAN祭りに書き込みをした人が、この程度は侮辱表現ではないと個人的に思ったとしても、「本人が侮辱と感じる」こともある。また、一般社会から普通の感覚で見て「侮辱」と受け取られることもある。大げさかもしれないが、これだけでも表現として、侮辱罪という犯罪行為を構成する要件たりうるのではないだろうか。
もう一つ気になったのが、裁判所の決定や判決などの効力が及んでいるわけではないのに、「広告を剥がせ」というのはやり過ぎだろう。ネットの中には保守だけでなく、革新やリベラル、共産主義者などの反対意見も当然存在する。
保守だけがターゲットにされるのはおかしいし、企業が不買などのユーザーの声を気にすることを悪用した広告の通報は、業務妨害になる可能性もある。
それら手口の指南をしたとみなされれば、幇助(ほうじょ)や教唆、共謀など何かしらの責任を問われてもおかしくない違法性のある行為と言えるだろう。彼らのウェブサイトには正当性の記述もあり、ここでは詳述しないが、それ以外の表現も含まれており、やはりその部分においては違法性も検討されることがあるだろう。
仮に、私がサーバー運営者であったとしても、遅かれ早かれ、当該サイトの名誉毀損表現などに対し警告を発し、期間を定めて自らの権限で凍結させるだろう。
以上のように、ネトウヨ秋のBAN祭りが凍結された理由はいくつかあるが、今回のように保守派、いわゆるネトウヨとされている人たちをターゲットにした攻撃は、左派などがやっているのか?というと、それだけでは片づけられないのだ。
想像や憶測でしかないが、広く、深く、ウェブサイトにはただ単にオモシロイ遊びとしていわゆるBANをゲームとして楽しんでいることもあるようだ。
例えば、ゲームにはルールがあってそのルールがたまたま「ヘイトスピーチをつぶやくアカウントを攻撃するというお題目によるもの」だったわけで、たまたまゲームのターゲットが「ネトウヨ」と呼ばれる人たちだったりするのだ。
私の頭の中に彼らのゲームを感じさせたのは、この凍結された「【TWITTER】ネトウヨ春のBAN祭り・夏のBAN祭り・秋のBAN祭り―アットウィキ」が閉鎖されたその日のうちに、新たな場所でじわじわとサイトが作り直されていたことだ。
地雷と呼ばれ嫌われる筆者
そしてそれは、より「安全な場所へ」などと新たにサイトを作成するにあたり、準備段階でも彼らはいろいろと議論したようだ。事務所スタッフがのぞいたウェブ掲示板には、今回のミスは「誰かが小西寛子を人物辞典に入れたこと」であるとし、彼ら曰く「小西寛子というとても大きな地雷を踏んでしまった」ことを皆反省すべきだと書かれていたという。
今後は攻撃ルールにふさわしくないものを省いて、自分たちがBANの場として構築されていくものを容易に破壊されないように、新たなルール作り(リスクマネージメントを考慮?)をしていこうなどの意見も見られたようだ。
実際、私から見ても、見苦しい明らかなヘイトスピーチや、単なる嫌がらせやうっぷん晴らし、そして金銭的利益のためにいわゆる偽右翼活動している人などの言動には嫌悪しており、攻撃されてもやむなしとの考えは一理あると思う。
そして、現代のディープなネット社会にはそれなりのいろいろな形のゲームがあるかとも思う。そのゲームの中のルールが一種のグレーゾーンの中に正当性をいわしめるものならば、百歩譲って「あっちの芝生に行ってやれ」程度には言うが(認めているわけではない!)、ここぞとばかり便乗して、思想信条や自分の反対意見を押し通すために自由を制限しようとするならば、私もBANするしかない(笑)。
*産経デジタル iRONNAサイト閉鎖のため、小西寛子執筆記事のアーカイブはこちらからお読みいただけます。記事を転載される際は©産経デジタル iRONNA 及び本ページのアドレスの表記をお願いいたします。 The entire article can be quoted in your media if you give credit for the article. (Credit must be given to both Sankei Degital Co “iRONNA” and Author: Hiroko Konishi.