小西寛子のギターレビュー
最近、音楽シーンに大きな喪失感を残す訃報が届きました。アニメ「聖闘士星矢」の伝説的なオープニング「ペガサス幻想」を歌い上げ、ハードロックから特撮ソングまで幅広い世界で輝き続けたNoBこと山田信夫氏が、8月9日、61歳の若さでこの世を去られたのです。
筆者の私、声優、シンガーソングライター小西寛子は、ラリビーファミリーの一員としてお世話になっている日本でのラリビー代理店である株式会社日本娯楽の豊川正二郎さんから、NoBさんの古い友人としての思い出話を特別に伺いました。豊川さん自身、80年代のロックシーンでLOUDNESSの樋口宗孝さんらと深く関わってきたベテランで、そんな彼が語るNoBさんのエピソードは、感慨深い・・・。

学生時代にフォークソングとバレーボールで鍛え上げた声帯の基礎から、18歳でLOUDNESSの樋口宗孝さんのソロアルバムに歌詞を書き下ろした「Runaway From Yesterday」まで、彼のロック魂はいつもまっすぐで、優しい人柄がにじみ出ていました。豊川さんによると、当時ボーカルとドラムをこなしていた頃、NoBさんに「唄は心」と直接指導していただいたそうです。あの温かな声で歌われるメロディーは、今もレコーディングのスタジオで耳に残るようなエピソード。ファミコン対決で惨敗した話も、笑いながら伺えば、彼の人間性がサウンドのように響いてきます。
女性にモテモテだったというトリビアも、きっとあの魅力的な歌声の賜物でしょう。前振りが長くなってしまいましたが、そんなNoBさんがソロ活動で愛用していたのが、今回紹介するLarrivee LV-09。ロック臭いギターを好む彼が、ラリビーの優しく遠鳴りする音色に惚れ込んだという話は、豊川さんから特別に伺いました。尖ったメタリックな世界を渡り歩きながらも、心の奥底に潜むフォークのルーツが、このギターのバランスの取れたトーンにぴったりハマったのでしょう。

筆者も普段、作曲やレコーディングでLarrivee OM-9やOM-10QM(キルテッド・メイプル)をメインに使っていますが、NoBさんの使用されたギターと同じLarrivee LV-09を手に取ってみて、改めてその汎用性の高さに驚かされました。OMVのカッタウェイモデルは使ってましたが、L型(Larrivee body)のボディのドレッドノート級のボリュームと低音の力強さを実感します。これはオーケストラスタイルのコンパクトな快適さで包み込んだデザイン。
よく見るとトップにカナダ産シトカ・スプルース、バックとサイドにソリッド・インディアン・ローズウッド、ネックはマホガニーでサテン仕上げ、フィンガーボードとブリッジはエボニー。対称パラボリックXブレーシングが共鳴を強化し、アバロン・ロゼットやマルチストリップ・メイプル・バインディングがエレガントに彩る。スケールは25.5インチ、ナット幅1-3/4インチと、私の小柄なOMシリーズに近いフィーリングで、すぐに馴染めました。実際に弾いてみると、まず感じたのはその明瞭さとオーバートーン。フィンガースタイルでピッキングすると、クリアなハイとミッドが優しく広がり、NoBさんのボーカルスタイルのように、心に染み入る響き。
ストラミングに切り替えると、ベースの焦点が合ったパワーがドンと出てきて、ライブのステージで歌い上げるのにぴったりです。OM-9やOM-10QMの繊細なニュアンスに比べて、LV-09はローズウッド特有の「音の立ち上がりが良く、クリアで輪郭がはっきりした音色」感が強く、ミックスダウン時にもボーカルを引き立てやすい。
多分レコーディングで使ってみたら、マイクインのレスポンスが抜群で、EQをほとんどかけずにクリーンなトラックが取れそうです。メーカーの説明に書いてあるTUSQナットとボーンのサドルは安定したサスティンを生み、ピカピカの仕上げのボディは視覚的にもインスピレーションを掻き立てます。
NoBさんのようなトーンでアニメ主題歌にドラマチックなメロディーを乗せたら、きっとあの遠くまで届く優しい音色が、彼の歌声と溶け合うはず。でも、もちろん、仕事の目で見ると、完璧一辺倒でもありません。私の経験から言うと、ポジションが少し低めに出荷される場合があるので、初期に自分の感覚にセットアップしたり少し上げて調整したくなります。
弦はフォスファー・ブロンズのライトゲージが最適で、80/20ブロンズだと低音が少し散漫になると言われていますが、私もフォスファーを使用していますけど、それはそうかもしれません。リバーブがコントロールしやすくジューシーなトーンが魅力ですが、OM-10QMのメイプル・バックみたいに、もっと甘いミッドを求めるならカスタム弦で微調整を。

ちょっとエクスペンシブですが(笑)箱から出してすぐに「永遠の相棒」感を与えてくれます。NoBさんが満足して使っていたというのも、納得です。大阪の普通の高校生から、ハードロック、歌謡界、アニメの世界まで声を響かせたNoBさん。その人間性が、ラリビーのサウンドに表れていたように、私の作曲シーンでもこのLV-09だったら新しいインスピレーションを呼び起こしてくれそうな感じです。
惜しくもいなくなられた彼のロック魂を胸に、私自身もこれからもギター一本で心を歌い続けたいと思います。あ、LITTLE CUREのように洋楽チックなプロジェクトも続けますが、渋い人生をフォークギターで送りたいです。
筆者後記
ギターというのは、音の記録であり、人の記録です。Larrivee LV-09は、華美ではなく、誠実で、どこか人間らしい。ソリッド・インディアン・ローズウッドのバックとサイドが織りなす温かな響き、シトカ・スプルースのトップが捉える繊細なニュアンス、そしてヴェネチアン・カッタウェイがもたらす上フレットの自由度—これらが、NoBさんの人生のように、力強くも優しいメロディーを紡ぎ出します。NoBさんの人生と重ねて触れたこのギターを、私も「心で鳴る楽器」と呼びたいと思います。きっと、彼の歌声が今もこのボディに宿っている気がして、指先が震えます。
取材協力:株式会社日本娯楽
NoBさんが使用されていたモデル LV-09 日本娯楽サイト Jean Larrivée Guitars
*本記事は。小西寛子公式ウェブサイトの記事です。ギター関係のレビューはLankyへ