おかげさまで、ミニ・アルバム『遙カノ島』のダウンロード版を、無事に8月1日にリリースすることができました。今日は、その中でも特に思い入れの深い楽曲「みゆき橋」の制作秘話を、少しだけご紹介したいと思います。
『遙カノ島』は、戦後80年という節目の年に、日本各地の記憶や風景を音楽で綴った作品です。その中で5曲目「みゆき橋」は、広島をテーマにした楽曲。静かな導入から徐々にテンポを上げ、やがて目まぐるしく展開していく——まるで人生そのものを描くような構成となっています。
冒頭、切ない歌声と、(歌と同時には演奏できないので)レコーディングで吹いた、フルートがたゆたうように重なり合い、どこか遠い記憶の中の風景を思わせる旋律が流れます。まるで時間が止まったかのような空気の中で紡がれる、音の物語。その後、やや混沌としたアンサンブルへと移ろいながら、曲は聴く人を物語の情景の中へと誘っていきます。どこかシアトリカルな雰囲気を帯びながら。
「みゆき橋」というタイトルは、広島に実在する橋から着想を得ましたが、この楽曲で描こうとしたのは、批判や特定の誰かの物語ではありません。「誰か」たちの気配——名もなき人々の営みと、そこに静かに流れていた時間の層です。
音の設計では、「声にならない祈り」をイメージの核としました。最初はアコースティックギターで弾き語りながら形を探りましたが、感情の変化に合わせてキーを変えたり、ピアノで試してみたりと、何度も模索を重ねました。録音ではアナログな空気感を大切にしながら、一つひとつの響きが「残響」として意味を持つように、スタジオの空気ごと包み込むような(ビンテージ機材)マイク配置とアナログ機材でもミキシングを心がけました。
構成もまた、人生をなぞるように設計しています。静かに始まるスローテンポから、徐々にリズムが加速し、メンバーのエレクトロック・ベースやドラムがそれぞれ異なる旋律を奏でながら複雑に絡み合い、やがて再び静寂へと戻っていく——緩やかな始まり、激しい展開、そして静けさへと還る「円環構造」。その構造そのものが、「橋」というモチーフと深く共鳴しているようにも感じています。
制作中、何度も思ったのは「歌うことは祈ることに似ている」ということ。歴史を語るのではなく、誰かの胸の奥にそっと触れるような音楽を届けたい——そんな想いをすべての音に込めました。
『みゆき橋』は、歌であり、祈りであり、そして記憶の在り処を静かに問いかける「音の橋」です。
どうかこの楽曲の中に、あなた自身の大切な記憶や、誰かの面影を見つけていただけたら嬉しいです。
それはきっと、この作品が未来へとつながる橋になるということなのかもしれません。
小西寛子「遙カノ島」より『みゆき橋』
作詞・作曲・演奏:小西寛子 演奏:こにし☆ひろこばんど
・
●小西寛子「遙カノ島」好評発売中
・