マンジャロという薬の名前を、最近よく耳にするようになりました。「注射で痩せる」「食欲が落ちる」「我慢しなくても体重が減る」。そんな言葉だけが広がると、減量はまるで、薬を使うか、根性で耐えるかの二択のように見えてしまいます。
でも、本当はそうではありません。
この話を始めるその前に、大事な前提を!ーーまず、マンジャロを正しく必要とする糖尿病などの患者さんを誤解や否定してはいけません。現行の日本の電子化添付文書では、マンジャロは処方箋医薬品であり、効能・効果は「2型糖尿病」です。適用は、糖尿病治療の基本である食事療法・運動療法を十分に行ったうえで効果が不十分な場合に限り考慮するとされています。〔資料1〕
また、このお薬の重大な副作用として低血糖、急性膵炎、胆嚢炎、胆管炎などが記載され、悪心、嘔吐、下痢、便秘、腹痛などの胃腸症状も副作用欄に示されています。つまり、これは気軽な美容アイテムではなく、医師の判断のもとで扱うべき薬です。〔資料1〕
さて、この記事は、「薬に頼る人は駄目だ」と責める記事ではありません。必要な人には、薬が必要だということを理解していただきたきたい為の知識でもあります。ただし、「痩せたい」という気持ちだけで注射に向かう前に、知っておくべきことがあります。それはーー
私たちが太るのは、意志が弱いからだけではありません。太りやすい生活の構造が、毎日の中に組み込まれているからです。
夜遅くまで起きて、朝は菓子パンだけ。
昼は麺類、夜はご飯大盛り。
喉が渇けば甘いカフェ飲料。
疲れて帰れば、冷蔵庫にあるものをそのまま食べる。
ラーメンの汁を飲み干し、調味料は無意識にかけ、間食は「少しだけ」のつもりで袋ごと開ける。
これは、根性の問題ではありません。AI研究者風に言えば「設計」の問題なんです。
減量は「食べないこと」ではなく「配分すること」
取材で、マンジャロを医師の処方で定期的に接種している2型糖尿病の患者さんから退院後にデータを分析するために提供いただいた病院の栄養指導票を見ると、減量の基本は「食べるな」ではなく、「配分せよ」だと分かります。
主食をゼロにするのではなく、重ねすぎない。たんぱく質を毎食に置く。野菜、海藻、きのこ、こんにゃくを増やす。油と調味料を見える化する。汁物や麺類の汁を毎回飲まない。
厚労省の食事バランスガイドでも、毎日の食事は「主食」「副菜」「主菜」「牛乳・乳製品」「果物」の料理グループで考える形が示されています。主食はごはん・パン・麺、副菜は野菜・いも・海藻・きのこ、主菜は魚・肉・卵・大豆製品です。つまり、減量は炭水化物を敵にすることではなく、食卓全体の偏りを見直すことです。〔資料2〕
私が記事を書く際、取材でいただいた資料(本件では著作権の関係で掲載しませんが、本記事最後部に編集部がまとめたものを付録させます。)の栄養指導票には、たとえば「1600kcal」「食塩6g未満」といった数字があります。ただし、これは先程の入院中の個別の栄養指導例です。適切な1日の摂取エネルギー量は、年齢、性別、身長、体重、日々の活動量などで一人一人違います。より正確にするには、あなたに合った適切な量を調べるなど、主治医や管理栄養士の指導に合わせる必要があります。〔資料3〕
メディアによくある減量メニュー、気になってしまいますが、大事なのは、数字をそのまま真似することではありません。食事を「主食・たんぱく質・野菜・油・調味料」に分けて見ることです。
体重が増える生活には、「太る動線」がある
体重が増える生活には、たいてい「太る動線」があります。
帰り道にコンビニがある。
冷蔵庫にすぐ食べられる甘いものがある。
食卓にしょうゆとマヨネーズが置きっぱなしになっている。
ラーメンの汁を残すという選択肢がない。
寝不足のまま朝を迎え、昼に濃い味を求め、夜に疲れて食べすぎる。
これを毎日、あなたの意志で止めるのは難しいですよね?。だから、意志ではなく、動線を変える。
買い置きを変える。
食器を小さくする。
調味料を小皿に出す。
麺の汁を残す。
甘い飲み物を家に置かない。
食後に5分だけ歩く。
寝る時間を30分早める。
減量とは、自分を責めることではないと思います。太りやすい生活を、太りにくい生活へ設計し直すことですね。

まず30日、生活を設計し直す
日本肥満学会は、肥満症の減量目標について、まず現体重から3%以上、高度肥満症では5〜10%以上と示しています。最初から10kg、20kgを目指さなくても、健康上意味のある改善は始められます。〔資料4〕
わたしが実践している、ここからの30日プランは、短期間で劇的に痩せるためのものではありません。
「自分はどこで太るのか」を見つけ、太りにくい食生活を作るための練習です。
1〜7日目:自分が太る瞬間を見つける
できる限り(その後毎日続けましょう)
1日目は、朝の体重、腹囲、睡眠時間を書く。
2日目は、食事と間食の時間だけを書く。
3日目は、夕方、帰宅後、寝る前など、食べすぎやすい時間帯を見つける。
4日目は、甘い飲み物を書き出す。
5日目は、パン、麺、1日の中で重なっていないかを見る。
6日目は、外食、弁当、惣菜、インスタント食品の食塩相当量を見る。
7日目は、「自分が一番崩れる場面」を一つ決める。
ここでは、まだ頑張りすぎなくてよいですね。
まず、敵を見える化します。
8〜14日目:主食を抜かず、重ねない(参考付録参照)
8日目は、ご飯、パン、麺の量を固定する。(ちなみに私のご飯量は毎食150g以下です)
9日目は、朝パン、昼ラーメン、夜ご飯大盛りのような主食の重なりを減らす。
10日目は、ラーメンにライスをつけない。
11日目は、菓子パンを食事扱いしない。
12日目は、夕食のご飯を最初から少なめに盛る。
13日目は、炊飯器やパン袋を食卓に置きっぱなしにしない。
14日目は、主食を減らした分、たんぱく質と野菜を足す。
主食は悪者ではありません。
問題は、主食だけで食事が終わること、そして一日の中で重なりすぎることです。
15〜21日目:たんぱく質と野菜を毎食に置く
15日目は、朝に卵、納豆、豆腐、ヨーグルト、魚のどれかを足す。
16日目は、昼を「麺だけ」「パンだけ」にしない。
17日目は、夕食に魚、肉、卵、大豆製品のどれかを置く。
18日目は、野菜、海藻、きのこ、こんにゃくを1品足す。
19日目は、野菜を食事の最初に食べる。
20日目は、冷凍野菜、カット野菜、めかぶ、もずくなど、疲れた日でも食べられるものを用意する。
21日目は、ドレッシングやマヨネーズをかけすぎないよう、小皿に出す。
減量中の食事は、寂しい食事にする必要はありません。
むしろ、主食だけの食事をやめ、たんぱく質と野菜を置く方が、空腹に振り回されにくくなります。
22〜25日目:塩分と調味料を制する
22日目は、汁物を1日1杯までにする。
23日目は、麺類の汁を残す。
24日目は、しょうゆ、ソース、ドレッシングを「かける」から「つける」に変える。
25日目は、酢、柑橘、しょうが、しそ、ねぎ、こしょう、七味などで味にアクセントをつける。
減塩は、単に味を薄くすることではありません。厚労省e-ヘルスネットでは、めん類の汁やスープを残すこと、調味料を少しずつ使うこと、酢や香辛料を活用することなどが、減塩の工夫として紹介されています。〔資料5〕
痩せたいなら、まずラーメンを禁止するより、汁を飲み干す習慣をやめる。しょうゆを禁止するより、かけるのをやめて、つける。その方が、生活として続きます。
26〜28日目:動く量を生活の中に戻す
26日目は、食後に5分歩く。
27日目は、いつもより1000歩だけ増やす。
28日目は、スクワット10回、かかと上げ20回、壁腕立て10回を入れる。
運動を「ジムに行くこと」だと思うと、始める前に挫折します。でも、体重を支える体は、日常の動きで作られます。厚労省の身体活動・運動ガイド2023では、成人について、今より少しでも多く身体を動かすこと、歩行または同等以上の身体活動を1日60分以上、筋力トレーニングを週2〜3日行うこと、座りっぱなしを避けることが推奨されています。〔資料6〕
大切なのは、完璧な運動計画ではありません。
動かない生活を、少しだけ動く生活に戻すことです。
29〜30日目:睡眠と次の30日を決める
29日目は、寝る時間を30分早める。
30日目は、続ける習慣を3つだけ選ぶ。
睡眠不足は、体重管理を難しくします。厚労省e-ヘルスネットでは、睡眠不足が続くと、食欲を抑えるレプチンが減り、食欲を高めるグレリンが増えるため、食欲が増大することが説明されています。〔資料7〕
夜に食べてしまう人に必要なのは、夜の根性だけではありません。睡眠の修理です。
30日が終わったら、全部を続けようとしなくていい。甘い飲み物を減らす。麺の汁を残す。食後に歩く。この3つだけでも、生活は変わり始めます。
薬は食欲を変えられる。でも、暮らしは自分で設計する
マンジャロを必要とする患者さんを否定してはいけません。医師の判断のもとで、薬物療法が重要になる人はいます。しかし、「痩せたい」という気持ちだけで注射に向かう前に、一度立ち止まってほしいのです。
薬は食欲に働きかけることができます。
でも、薬はあなたの冷蔵庫を整理してくれません。
帰り道のコンビニを避けてはくれません。
ラーメンの汁を残してはくれません。
寝不足の夜に、スマホを置いてはくれません。
食卓に、主食、たんぱく質、野菜をどう置くかまでは決めてくれません。
だから、減量の土台は「我慢」ではなく、生活構造に置く必要があります。30日で人生を変えようとしなくていい。
まず30日、太りやすい動線を一つずつ外していく。それが、薬を使う人にも、使わない人にも必要な、体重管理の土台です。
なお、糖尿病がある人、急激な体重変化がある人、摂食障害が疑われる人、妊娠中の人、持病や服薬がある人、低血糖症状がある人は、一般的なダイエット記事だけで判断せず、医師や管理栄養士に相談してください。安全な減量は、極端な我慢ではなく、続けられる生活設計から始まります。
付録:栄養指導票に学ぶ「食品群の見方」参考表
取材した病院の栄養指導票では、食事を「主食」「果物」「魚・肉・卵・大豆製品」「乳製品」「油脂」「野菜」「調味料」に分けて考えます。これは、食べ物を善悪で分けるためではありません。「何が多すぎるのか」「何が足りないのか」を見える化するためです。
※以下は取材先の栄養指導票をもとにした参考表です。
※この票では、1日1600kcal、合計20単位、食塩6g未満の個別指導例になっています。必要量は人によって異なります(糖尿予備軍の患者例)。
| 食品の分類 | 食品の種類 | この指導票での1日の指示単位 | 1単位のめやす量の例 |
|---|---|---|---|
| 主食・でんぷん食品 | 穀類・芋・豆 ※大豆は除く | 10単位 | ごはん50g、食パン30g、茹でうどん80g、じゃが芋110g、かぼちゃ90g |
| 果物 | くだもの | 1単位 | りんご150g、バナナ100g、みかん200g |
| たんぱく質のおかず | 魚介・大豆・卵・チーズ・肉 | 4.5単位 | たら100g、さけ60g、木綿豆腐100g、納豆40g、卵50g、プロセスチーズ20g、豚肉もも60g、とり肉もも60g |
| 乳製品 | 牛乳・乳製品 ※チーズは除く | 1.5単位 | 牛乳120ml、ヨーグルト120g |
| 油・脂質の多い食品 | 油脂・脂質の多い食品 | 1単位 | 植物油大さじ1杯、マヨネーズ大さじ1杯、アーモンド15g、豚ばら肉20g |
| かさ増し・整える食品 | 野菜・海藻・きのこ・こんにゃく | 1.2単位 | この票では野菜1日量360g、1回量120gが目安 |
| 調味料(味つけ) | みそ・砂糖・ケチャップなど | 0.8単位 | みそ小さじ1杯=6g、砂糖小さじ2杯=6g、トマトケチャップ大さじ1杯=20g |
たとえば、この指導票では、穀類・芋類は1日10単位、魚介・大豆・卵・チーズ・肉は4.5単位、牛乳・乳製品は1.5単位、油脂は1単位、野菜類は1.2単位、調味料は0.8単位とされています。合計は20単位で、1日1600kcalの個別指導例です。ただし、この数字を読者全員がそのまま真似する必要はありません。大切なのは、主食を抜くことではなく重ねすぎないこと、たんぱく質を毎食に置くこと、野菜・海藻・きのこを増やすこと、油や調味料を無意識に増やさないことです。
朝はパン、昼はラーメン、夜はご飯大盛りという生活では、主食が一日中重なります。一方で、たんぱく質や野菜は不足しがちです。減量でまず見るべきなのは、「食べたか、食べなかったか」ではなく、「何が重なり、何が抜けているか」です。
出典一覧
〔資料1〕日本イーライリリー「マンジャロ(チルゼパチド)電子化された添付文書」
https://medical.lilly.com/jp/mounjaro/mounjaro-package-insert
〔資料2〕厚生労働省 e-ヘルスネット「食事バランスガイド(基本編)」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-03-007.html
〔資料3〕日本糖尿病学会「健康食スタートブック」
https://www.jds.or.jp/uploads/files/publications/kenkoshoku_startbook/kenkoshoku_startbook.pdf
〔資料4〕日本肥満学会「肥満症診療ガイドライン2022」関連資料
https://www.jasso.or.jp/data/magazine/pdf/medicareguide2022_09.pdf
〔資料5〕厚生労働省 e-ヘルスネット「栄養・食生活と高血圧」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-02-002.html
〔資料6〕厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/content/001194020.pdf
〔資料7〕厚生労働省 e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/heart/k-02-008.html
