「外国人受け入れに上限 帰化取り消しの制度創設も 維新提言」というニュースポストが話題です。この中で筆者が下記のポストをしたところ、「無国籍者が生ずる」という返信を見かけました。
筆者のいう「遡及的無効」という法理は「取消し」などではありませんが、まずは日本に帰化し、国籍を放棄した元の国の国籍に戻す場合の回復ルールから検討する。
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一度放棄した国籍は自動的に復活するのか?実は多くの国では「自動復活」という仕組みは存在せず、特別な申請や条件を満たして初めて国籍を回復できるケースがほとんどです。 以下に主要国の比較早見表を示します。
国 | 自動復活 | 回復(再取得)制度 | 主な条件・ポイント | 出典リンク |
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イタリア | なし | Riacquisto(再取得) | 在外公館で宣言届。法91/1992第13条。 | 外務省 |
フランス | なし | Réintégration(再統合) | 申請/宣言で回復。通常帰化より簡略。 | Service-Public |
スペイン | なし | Recuperación(回復) | 合法居住+意思宣言+戸籍登録。 | 外務省(東京) |
フィリピン | なし | RA 9225 | 領事で忠誠宣誓。natural-born 地位も回復。 | 大使館 |
ポルトガル | なし | Reaquisição(再取得) | 元国民の再取得を柔軟運用。 | 国籍法 |
ブラジル | 喪失しにくい設計 | EC 131/2023 | 他国籍取得での自動喪失を廃止。 | 下院ニュース |
日本 | なし | (原則)帰化 | 未成年喪失の届出再取得のみ例外。 | 法務省 |
アメリカ | なし | 特別回復なし | 放棄はほぼ不可逆。移民から再取得。 | 国務省 |
ドイツ | なし | Wiedereinbürgerung | 独語・生計・結びつき。国外申請も可。 | BVA |
韓国 | なし | 国籍回復許可 | 法務部の許可制。宣誓手続き。 | 在日大使館 |
カナダ | なし | Resumption | Citizenship Act s.11(1)。CIT0301。 | IRCC |
台湾(中華民国) | なし | 国籍回復/戸籍復帰 | NIA・戸政で申請。NWOHRは戸籍登録で完全復帰。 | 内政部 |
イスラエル | なし | Law of Return | ユダヤ人等は帰還で即取得。非ユダヤ人は自然帰化。 | 概要 |
オーストラリア | なし | Resume Citizenship | Form 132。成人はgood character要件。 | 内務省 |
ニュージーランド | なし | 例外的救済中心 | 一般的な再取得制度なし。歴史的救済あり。 | ニュース |
表について
・自動復活はごく稀で、ほぼ全ての国が「申請型の回復制度」
・イタリア、フランス、スペイン、フィリピンなどは「簡易回復」制度が整備済み
・ブラジルは憲法改正で「喪失しにくい国」に変化
・日本やアメリカは特別回復ルートが弱く、再度の帰化が基本
・ニュージーランドは一般制度がなく、例外救済中心
各国の制度は頻繁に改正されるため、実際の手続きは必ず 各国政府・大使館・領事館の最新情報を確認してください。
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このようにほとんどの国では国籍の再取得が厳格に規定されています。しかし、帰化の遡及的無効の場合はこの規定の限りではありません。国際人権規範などが、無国籍をなくすように決められているため、遡って日本の国籍を申請する以前に戻りますので事情が変わります。
日本における帰化の遡及的無効は、帰化による日本国籍の取得が初めからなかったものとみなされます(民法の無効に関する一般原則や行政行為の無効の法理に基づく)。この場合、帰化時に喪失したとされた元国籍の法的効果も遡及的に生じなかったと整理され、元国籍が維持されていると解釈するのが合理的です。この解釈は、以下の点で国籍法、行政法理、国際人権規範に適合します。
- 国籍法の論理:日本の国籍法(特に第11条など)は、帰化の無効が遡及的に扱われることを前提としており、元国籍の喪失は帰化の有効性を前提とするため、無効により元国籍が復活すると整理される。
- 行政法理:帰化は行政行為(許可)であり、その無効は遡及的に「なかったこと」になる。したがって、帰化に基づく元国籍の喪失も法的効果を失い、元国籍が維持される。
- 国際人権規範(無国籍防止):無国籍状態の回避は、1961年の無国籍状態の削減に関する条約や国際人権法の原則に基づく重要な規範です。元国籍の維持を認める解釈は、無国籍状態の発生を防ぎ、国際法と整合します。
「無国籍になる」との反論についてこの反論は、帰化無効後に元国籍が自動的に復活しない場合や、元国籍国の法制度が復活を認めない場合に無国籍状態が生じるという懸念に基づくものです。しかし、以下の理由でこの懸念は解消されます:
- 元国籍の法的維持:帰化の無効は遡及的であり、元国籍喪失の法的効果が生じなかったと扱うため、元国籍は法的に維持されているとみなされる。
- 国際法の原則:無国籍防止の原則に基づき、帰化無効による無国籍状態は回避されるべきであり、元国籍国の法制度が復活手続きを要求する場合でも、これを促進する方向で解釈・運用されるべき。
- 実務上の手続き:元国籍国が国籍喪失を既に登録している場合、復活手続きが必要な場合もあるが、これは無国籍状態を回避するための技術的な対応であり、国際的なルール(無国籍削減条約等)に従う。
結論として、帰化の遡及的無効により、元国籍は法的に維持され、無国籍状態は回避されるべきとの解釈が、国籍法、行政法理、国際人権規範に適合する。実務上、元国籍国の法制度に応じた手続きが必要な場合もありますが、無国籍防止の国際的原則に基づき、当該国に適切な対応が求められます。この解釈は、法的安定性と人権保障の観点から合理的です。日本では、法務省、外務省などが連携して、当該国に通知すべきであると思われます。
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