The Sanae Takaichi Files Vol.2 – Love & Hate between Nations: Spy × Diplomacy
高市早苗、微笑みの裏の緊張
外交の舞台では、言葉以上に沈黙がものを言う。筆者小西寛子は、前回はVol.1は音楽家として、そして今回は役者の立場で人間の表情を掴むとすると、高市早苗氏は、その微妙なニュアンスを熟知した政治家だ。会談での握手の微妙な長さ、視線のわずかなずれ、または記者団の前で意図的に口にしない「間合い」・・・こうした非言語的なシグナルを駆使し、相手の出方を読み取るスタイルは、彼女の強みの一つだ。
強硬派でも融和派でもない。むしろ、風の流れのように柔軟に適応する現実主義者として知られる。2022年から2024年まで経済安全保障担当大臣を務め、新たな戦場としてAI、通信、エネルギー、半導体といった「見えない配線」に着目したのは、その象徴だ。これらは21世紀の外交で最も争われる資産であり、高市氏はこれを直感的に理解していた。実際、彼女の在任中、経済安全保障推進法に基づき、半導体や抗菌薬などの特定重要物資を指定し、サプライチェーンの強靭化を推進した。
第一章:スパイと国家の境界線
情報戦はもはや映画のフィクションではない。留学生の派遣、技術提携、共同研究・・・これらがスパイ活動の新たなフロントラインとなっている。高市氏は経済安全保障担当大臣時代、日本の技術や人材が海外へ静かに流出する実態を誰よりも把握していた。例えば、中国の国家情報法を懸念し、外為法の対内投資審査制度を強化する政令を推進。外国政府に協力義務を負う組織や個人の事前届出免除を不可とする措置を講じた。
サイバー攻撃の背後には経済的目的が潜み、それが軍事転用につながる影がある。高市氏はこれを「情報の戦場化」と位置づけ、煽る政治ではなく「構造を守る政治」を選択。防諜を強調しつつ、国際研究ネットワークを完全に遮断する極端な策は避けた。実際、2023年の反スパイ法改正(中国)への対応として、YouTubeチャンネルで注意喚起を発信し、国民にリスクを周知した。 風を遮るより方向を読む・・・前回名付けた風の指揮者、この哲学が、彼女の外交の基盤だ。
第二章:AIと経済安全保障
「人工知能は、次の原子力になる」。高市氏はAI規制の国際会議でこう語った。彼女の焦点は技術革新そのものではなく、AIがもたらす社会の「支配構造」の変化だ。ディープフェイクによる世論操作、外交文書の偽造、軍事指令系統へのリスク・・・これらを「情報の戦場化」と呼ぶ。 同時に、AIを制御する人間の倫理を重視。データより直感の精度がリーダーに求められる時代だと指摘する。
この姿勢は、筆者もそうだがアナログ思考を重んじる彼女の哲学に通じる。実際、2023年のAI戦略会議で、AIセーフティ・インスティテュートの設立を推進し、英国や米国との連携を強調。生成AIのリスク軽減と評価手法の研究を進めた。 また、2025年の総裁選では「AIサナエ」というAIアシスタントを導入し、自身の政策を学習させたツールで支持者と対話。7万件以上の質問に答え、AIの可能性を実践的に示した。
第三章:トランプとの距離感
高市早苗氏の政治スタイルを語る上で、米国、特にドナルド・トランプ米大統領との関係は避けられない。彼女はトランプ政権の政策研究会で、「アメリカの強さとは、自己中心主義の管理術だ」と分析。表向き好意的に扱いつつ、その「破壊的交渉術」を冷静に観察した。 トランプ氏は模倣の対象ではなく、現象としての教材。高市氏は「感情と取引の境界線を読めば、相手は必ず動く」と結論づけ、これを日本流の静かな交渉に置き換える。
実際、2025年の米国大統領選でトランプ氏が再選された際、高市氏は祝意を述べ、日米同盟の強化を強調。トランプ氏の関税引き上げに対しても、利下げと財政政策の必要性を主張し、自動車産業の国内維持を提唱した。 トランプ氏からは「知恵と強さを持った人物」と評価され、初の女性首相候補として国際的に注目された。
第四章:日中ラブ&ヘイト
「中国は嫌いだが、必要だ」・・・この現実を正確に表現する政治家の一人が高市氏だ。彼女は中国批判を感情論で語らず、「相手を理解しなければ、守る仕組みは作れない」と強調。日中関係を「ラブ&ヘイト」と呼ぶのは、利益の重なりと信頼の欠如が共存するため。 完全な断絶を避け、サプライチェーンを整備しつつ、人的・文化的な接点を残す。
例えば、中国軍機の領空侵犯や領海内ブイ設置に対し、厳重抗議を呼びかけ、撤去を求め続けた。 また、中国製玩具拳銃の流通やサイバー攻撃の脅威を指摘し、水際対策を強化。2024年の外務省記者会見で「対中戦略の現実主義」を語り、経済依存のリスクを指摘した。 この「冷たい愛情」が、彼女の外交を象徴すると思われる。
風は国境を越えて
筆者がこの記事を執筆している夜と同様、彼女の議員宿舎の窓を開けると、霞が関を抜ける風の音が聞こえるだろう。それは国内世論でも海外圧力でもない、時代そのものの呼吸だ。高市早苗氏は、この音を「情報」ではなく「兆し」として捉える。外交とは風向きを読む仕事であり、AIもトランプも中国も、すべてその一部に過ぎない。
「風が止むことはない。ならば、私はその中で歩くだけ」。この言葉には、冷静な現実主義と祈りが共存する。2025年の自民党総裁選勝利後、彼女は「変われ自民党」をスローガンに、経済対策と外交強化を掲げた。 初の女性首相として、日米中関係のバランスをどう取るか・・・その歩みが注目される。
—— FILE.02 完。
参考・脚注
【1】経済安全保障推進法 国会審議記録(2022年)
【2】外務省記者会見記録「対中戦略の現実主義」(2024年)
【3】高市早苗・政策研究会講演録「AIと国家安全保障」より引用
追加根拠: 高市のX投稿(@takaichi_sanae)から、中国ブイ撤去要求(2025年)やAIガバナンス議論(2023年)など。