Photo:Tulsi Gabbard” by U.S. Congress is licensed under CC BY‑SA 4.0 (or CC BY 2.0). 筆者:小西寛子(声優・シンガーソングライター・執筆)
2025年7月、アメリカの情報界で重大な転換点となる発表が行われた。国家情報長官(DNI)タルシ・ガバード氏が、2016年の米大統領選挙に関し、ロシアによる「選挙介入」は意図的に誇張されたナラティブであるとし、オバマ政権の高官らを名指しで非難。複数の機密文書を解除し、司法省に「反逆罪」などでの起訴を要請した。
筆者は、この出来事を「情報と権力、透明性と政治性が交錯する重大な局面」と捉え、人類にとって「情報の透明性」がいかに不可欠かを示す象徴的な事件として位置づける。
2025年7月、アメリカで静かに、しかし確実に歴史の再評価が始まった。
国家情報長官(DNI)タルシ・ガバード氏が、2016年の大統領選に関して機密解除された複数の情報報告を基に、「オバマ政権は虚偽のロシア介入ナラティブを構築し、トランプ大統領の正統性を揺るがした」と公に非難したのだ(引用【1】以下同表記)。
「オバマはトランプを倒そうとした」一人の内部者の告発
「我々は、合衆国の情報機関が真実を曲げ、政治的目的のために利用された証拠を有している。」
ガバード氏はこのように述べ、オバマ政権下の元情報長官ら(ジェームズ・クラッパー元国家情報長官、ジョン・ブレナン元CIA長官、ジェームズ・コミー元FBI長官など)を名指しで批判した。
同氏は彼らを「国家反逆罪」などで起訴すべきと主張し、そのための証拠を司法省に提出したという【1】。
公表された機密文書には、2016年9月および12月の情報評価報告(ICA)が含まれていた。そこには、「ロシアが選挙インフラに対して広範囲なハッキングを行った形跡は見られない」と明記されていた【2】。ところが、2017年1月の最終報告では、これとは異なりロシアの介入が強調される内容へと変質していた。
情報機関による“ナラティブ(個々の経験に基づく主体的に語られる「物語」)の変質”はあったのか?
この点について、ガバード氏はこう問う。
「なぜ初期の報告では“攻撃なし”とされていたのに、後の報告ではロシアの脅威が強調されたのか?誰が、何のために、内容を書き換えたのか?」【1】
彼女の主張は明快です。
――「これは単なる情報操作ではない。民主主義そのものへの攻撃だ」。
批判の声「反対派は“陰謀論”と一蹴」
これに対し、民主党のジム・ハイムズ下院議員(コネチカット州)は、「全くの茶番だ」と一蹴している。
「DNIの椅子を政治利用するなど言語道断。過去に数度にわたり議会で調査された案件を蒸し返し、再び国家の分断を煽る意図が見え透いている」【1】
また、上院情報委員会による2020年の超党派報告書でも、「ロシアが大規模な影響工作を行い、トランプ候補の当選を後押ししようとした」と結論付けられていた。ただし、実際の投票集計に対する改ざんなどの証拠は見つかっていない。
「勇気ではなく、使命」ガバード氏の信念
一方で、ガバード氏は単なる“暴露者”ではない。
かつて民主党の大統領候補選に出馬し、後に独立系の声を強めた彼女は、今回の動きについてこう語っている。
「これは私の勇気というより、人類の未来に対する責任です。真実を明かすことが、最終的にはあなた達自身を救うことになるのです。」【3】
彼女のX(旧Twitter)での投稿には、多くの支持の声が寄せられている。「透明性を求める政治家が、ようやく公的立場で動いた」「歴史が変わる瞬間だ」との声も少なくない。
今後の行方:司法は動くのか
現時点で、司法省やトランプ政権からの公式なコメントは出ていない。しかし、ガバード氏の要求が公的機関による新たな調査につながるかどうか、今後の動きが注目される。
これは単なる過去の再検証ではない。民主主義国家において「情報の透明性」と「国家によるナラティブ形成の是非」が、改めて問われることになった瞬間なのだ。
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◆ タルシ・ガバード氏について
タルシ・ガバード氏は、ハワイ州選出の元連邦民主党下院議員であり、2020年には民主党の大統領候補予備選にも出馬。政治的にはリベラルと保守の垣根を超える独立的な立場を貫き、「反戦」「国家主権」「市民の自由」などを一貫して訴えてきた。2024年、トランプ元大統領の指名により国家情報長官に就任。情報機関の透明性と説明責任を強く主張する数少ない現職高官である。
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引用・出典
【1】Politico: Tulsi Gabbard calls for prosecution over ‘treasonous’ Russia investigation
【2】New York Post: Obama officials downplayed Russian hacking before changing tone
【3】@DNIGabbard on X(旧Twitter): Tulsi Gabbard official post
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