祈りのように、歌にして
『ミニエッセイ』ミニアルバム『遙カノ島』をめぐって
戦後80年が過ぎました。
時代は静かに、けれど確かに移り変わっていきます。
あの頃十代でも90歳、当時を生きた人の声は遠のき、記憶は、風にさらわれるように少しずつ姿を消していきます。
でも、本当にそれでいいのでしょうか。
忘れてしまえば、それは『なかったこと』になってしまう。
なかったことになればまた繰り返す歴史。
そんな危機感が、私の中にずっとありました。
私ができることは、歌を作ること。
言葉ではなく、音や声を通して、見えないけれど確かにそこにあった何かを伝えたい。
8月1日に発売されるミニアルバム『遙カノ島』には、そんな思いを込めました。
たとえば「みゆき橋」。
橋とは、人生を渡す場所だと思うのです。
生まれて、育って、誰かと出会い、やがて別れ、また次の誰かがその橋を渡っていく・・・。
「誰かを待つ場所、誰かを待ち続ける場所」
そんな人の営みの象徴のような存在。
この曲では、広島に実在する橋の名を借りながら、静かに流れる時間の中で、
そこを渡っていった人々の気配を描こうとしました。
もうひとつの曲「遙島」では、身体がなくなっても、声が風になって生きていくというイメージを綴りました。
消えてしまったものが本当に『無』になるのではなく、
形を変えて、風や光のように誰かのそばにいる。・・・そう信じたいのです。
この作品をビジネスと見るか、祈りと受け取るかは人それぞれでしょう。
でも、私にとってはこれは、商業活動ではありません。
ただ静かに「忘れないで」と伝えるための、小さな祈りのようなものです。
戦争に賛成とか反対とか、そうした立場を超えて。
ただ、人が人を想い、失われたものをそっと抱きしめるように。
そんな気持ちを、音楽に託しました。
どうか、耳をすませて聴いていただけたら嬉しいです。
あの日の風が、どこかでまだ吹いていることに、気づいてもらえるかもしれません。
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