トランプの賭けとFRBの壁「MAGAを飲み込む嵐の予感」

トランプの賭けとFRBの壁「MAGAを飲み込む嵐の予感」

 2025年6月、米国は再び嵐の淵に立つ。ドナルド・トランプ大統領がイランへの直接攻撃に踏み切れば、原油価格が沸騰し、インフレの炎が経済を焼き尽くすかもしれない。一方、連邦準備制度(FRB)が金利引き下げを頑なに拒めば、成長の息の根を止める。この二つの衝撃波は、トランプの「Make America Great Again(MAGA)」の夢を粉々にしかねない。筆者は地政学と金融政策の衝突が、米国経済をどこへ導くのか。その暗雲を追う。

イランという導火線

 米国のイランへの軍事行動は、一瞬にして中東を火薬庫に変える。イランはOPECの重鎮であり、ホルムズ海峡という世界の原油動脈を握る。攻撃が現実となれば、供給の混乱は避けられない。今、ブレント原油は1バレル80ドル前後で落ち着いているが、過去の危機を思えば、100ドル、いや150ドルへの急騰も絵空事ではない。2022年のウクライナ危機でガソリン価格が跳ね上がった記憶はまだ生々しい。ホルムズ海峡が一時でも閉鎖されれば、その衝撃は当時を軽く超えるだろう。

 原油高は、まるで domino のように経済を揺さぶる。ガソリンが1ガロン5ドルを超え、輸送や製造コストが膨らめば、消費者物価は急カーブを描く。インフレは実質賃金を食い潰し、トランプ大統領の支持基盤であるブルーカラー層の不満を掻き立てる。MAGAの誓い”中間層の復活”は、物価高の波にさらわれかねない。波紋は米国を越え、グローバル経済に広がる。中国や欧州はエネルギーコストの直撃を受け、米国の輸出は競争力を失う。イランの盟友、ロシアや中国が米国債を売却したり、人民元での原油取引を加速させたりすれば、ドルの基軸通貨の地位すら揺らぐかもしれない。

FRBの冷徹な計算

 この地政学的動乱に、FRBの金融政策が冷や水をかける。2025年6月19日、FRBが金利引き下げを拒否すれば、インフレ抑制への執念を世界に示すことになる。連邦準備金利は今、4.25~4.5%の水準にあるとされるが、据え置きは企業や家計の借入コストを重くし、投資や消費を冷やす。特に、原油高でインフレの火種がちらつく中、FRBの硬直した姿勢は経済のエンジンを焼き切るリスクを孕む。

 トランプ大統領はFRBを目の敵にしてきた。ジェローム・パウエル議長への批判は、Xの投稿で支持者たちの怒りと共鳴する。「高金利はMAGAの足を引っ張る」との声が渦巻く中、トランプ大統領の圧力はさらに強まるだろう。だが、FRBが政治の風に屈し、拙速な利下げに走れば、インフレ期待が暴走し、長期金利が跳ね上がる。ドル安が進めば、MAGAの「強いアメリカ」の看板は色褪せる。株式市場はすでに高値圏で揺れており、S&P500やナスダックの急落は投資家の信頼を打ち砕くかもしれない。FRBの選択は、どちらに転んでも茨の道だ。

MAGAの試練

 MAGAは雇用創出、エネルギー自給、減税による繁栄を約束する。しかし、イラン危機とFRBの壁は、このビジョンを根こそぎにする。エネルギー政策の矛盾は特に痛い。シェールオイル増産で「エネルギー支配」を目指すトランプ大統領だが、原油高は短期的には石油企業を潤す一方、消費者や製造業を締め上げる。ガソリン高は、トランプ大統領の支持層の生活を直撃する。2022年にインフレ率が8%を突破した悪夢が再来し、関税政策がこれに拍車をかける。中国への高関税は輸入コストを押し上げ、原油高と相まって物価をさらに煽る。インフレが10%を超えるシナリオも、もはや空想ではない。

 雇用も危うい。今、失業率は3.8%前後だが、経済が失速すれば4.5%超に悪化する。実質賃金が目減りし、MAGAの「働くアメリカ」のスローガンは空疎に響く。支持者たちの苛立ちは、トランプ大統領の政治資本を削ぐだろう。

トランプの対抗策とその脆さ

 この危機に、トランプ大統領はどう立ち向かうのか。戦略石油備蓄(SPR)の放出は一つの手だが、2022年のバイデン政権の大量放出で備蓄は過去最低水準に近く、効果はたかが知れている。外交の舞台で「ディールメーカー」の手腕を発揮し、イランとの電撃的な和平を狙うかもしれない。だが、イランの強硬姿勢や、イスラエルの影を考えると、交渉は茨の道だ。サウジアラビアとの連携も、OPEC内の亀裂を広げるリスクを伴う。

 国内では、減税延長やインフラ投資で内需を奮い立たせようとするだろう。だが、FRBの高金利は財政赤字を膨らませ、国債利回りを押し上げる。2024年の公約は大胆だったが、議会の財政保守派や市場の冷ややかな目は、トランプの手足を縛る。経済刺激策は、期待ほどの馬力を発揮できないかもしれない。

霧中の未来

 2025年6月19日、イラン攻撃はまだ仮説の域を出ない。Xやウェブの情報では、イスラエルとヒズボラの衝突やイランの核開発への懸念がくすぶるが、直接攻撃の兆候は見えない。FRBの金利決定も、今日の時点では未発表だ。2024年末のFOMCでは利下げペースの鈍化が示唆されたが、インフレ動向次第で揺れる。原油価格は80ドル前後で小康状態だが、地政学の火花が飛び交えば、市場は一気に燃え上がる。

 トランプ政権は、この嵐を乗り切れるのか。イラン危機が引き起こすインフレの嵐と、FRBの金利の壁は、MAGAの土台を揺さぶる。エネルギー自給や雇用の夢は、グローバルな連鎖反応と国内の軋轢に飲み込まれかねない。トランプの指導力、その大胆さと柔軟性が試される。だが、財政赤字、エネルギー依存、FRBの独立性という構造的な壁は、簡単には崩れない。米国経済の行方は、なお深い霧に閉ざされている。


注記:この論考は2025年6月19日時点の情報と筆者小西寛子の推論に基づきますので、ご容赦ください/