【法律の視点で考える】報道の自由か思想の弾圧か|TBS報道特集 vs 参政党から考えるメディアと民主主義

【法律の視点で考える】報道の自由か思想の弾圧か|TBS報道特集 vs 参政党から考えるメディアと民主主義

メディアの「物語」と私たちの自由

 情報が溢れる現代社会において、メディアは私たちの世界観を形作る強大な力を持つ。テレビの画面、新聞の見出し、ネットの記事――それらは単なる情報の伝達を超え、価値観や判断を無意識に刷り込む「物語」を構築する。

 2025年7月12日土曜5:30 TBS「報道特集」(*筆者はテレビがないので各種新聞等報道に基づき執筆)の内容につき、参政党がTBS「報道特集」の放送内容を「偏向報道」としてBPO(放送倫理・番組向上機構)に申し立てた事件は、このメディアの権力性と、選挙の公平性、思想信条の自由がせめぎ合う複雑な問題を浮き彫りにしました。

 筆者、小西寛子は、アニメ『おじゃる丸』の初代声優としてテレビの世界に生きながら、メディアの影響力に警鐘を鳴らし続けてきた。何十年もテレビを見ない理由は、メディアが作り上げる「編集された現実」が、私たちの思考を停止させ、特定の「正解」を押し付ける危険性を身をもって知っているからです。

 20数年前、おじゃる丸を降板させられたとき、NHKによる音声の無断使用や、降板を「円満」と報じた虚偽報道(NHK報道被害)は、メディアが当事者の声を無視し、「都合のいい物語」を構築する残酷さを教えてくれた。参政党のケースもまた、メディアの強者(放送局)と弱者(新興政党)の力関係を映し出すものだと思います。

 この論考では、放送法、公職選挙法、憲法の枠組みを通じてこの事件を分析し、報道の自由と選挙の公平性、思想信条の自由のバランスを考える。さらに、私の経験と論考(「日本人ファースト」)を踏まえ、メディアの権力性と民主主義の課題について、読者と共に問い直す。

第1章 事件の概要(参政党とTBSの衝突

 2025年7月12日、TBS「報道特集」は、参院選を前に「争点に急浮上”外国人政策”に不安の声」と題した特集を放送した。番組は、参政党の「日本人ファースト」を掲げる主張を取り上げ、「排外主義をあおる」と批判。外国人差別に詳しい識者が「”日本人ファースト”がヘイトスピーチを助長する」とコメントし、人権団体が「外国人優遇は根拠のないデマ」と訴えた緊急声明を紹介した。

 参政党はこれを「偏向報道」として抗議し、TBSに訂正を求める申入書を提出。TBSの回答が「本質に触れない」と判断し、BPOの放送人権委員会に申し立てた。

 参政党の主張は、番組が「選挙報道として公平性・中立性を欠き」、党の政策を歪曲し、選挙の公平性を損なったというものだ。一方、TBSは「公益性のある報道」として、外国人政策が争点化した背景を客観的な統計とともに伝え、視聴者に判断材料を提供したと反論。この対立は、報道の自由(放送局)と思想信条の自由(政党)の衝突であり、強者(放送局)と弱者(新興政党)の力関係が背景にある。

第2章 法的枠組み(放送法と公職選挙法の交錯

 このケースを理解するには、放送法と公職選挙法、そして憲法の枠組みを整理する必要がある。以下、関連法を軸に問題を分析する。

 ア, 放送法「報道の自由と倫理の狭間

 放送法は、放送事業者の番組編集における原則を定める。特に選挙報道に関連するのは以下の条項だ:

  • 放送法第4条(政治的公平性、事実の正確性、多角的視点):
    • 政治的に公平であること(第4条1項2号)。
    • 報道は事実を曲げないこと(第4条1項3号)。
    • 意見が対立する問題では、多角的な論点を明らかにすること(第4条1項4号)。
  • 放送法第3条(編集の自由):放送番組は、法律に定める権限(例:公職選挙法)に基づく場合を除き、干渉されない。

 放送法第4条は倫理規範であり、法的強制力はないが、BPOのような第三者機関が違反を審議する。参政党は、番組が「日本人ファースト」を「排外主義」と断定し、党の主張を十分に反映しない一方的構成だったとして、第4条違反を主張。TBSは、統計や識者の意見を提示し、「多角的視点」を満たしたと反論する。

 イ, 公職選挙法「選挙の公平性を守る特別法

 公職選挙法は、選挙の公平性を確保する特別法であり、放送法より優先される。主要条項は以下の通り:

  • 公職選挙法第148条(報道の自由):選挙に関する報道・評論は自由であり、特定の候補者や政党を支持・反対しても、虚偽や事実の歪曲がない限り制限されない。
  • 公職選挙法第150条(政見放送):候補者や政党の政見を編集せず「そのまま放送」する義務がある。
  • 公職選挙法第129条(選挙運動の制限):選挙運動は公示日から投票日前日までと限定され、事前運動は禁止。

 このケースは報道番組(政見放送ではない)であるため、第150条は適用されないが、第148条が報道の自由を保障する。ただし、選挙直前の報道が特定政党を不利に扱い、選挙の公平性を害する場合、第129条(事前運動の禁止)違反の可能性が検討される。

 ウ, 憲法「表現の自由と思想信条の自由

 日本国憲法は、以下の条項で本ケースに関わる:

  • 憲法第21条(表現の自由、思想信条の自由):集会・結社・言論・出版その他一切の表現の自由が保障される。検閲は禁止され、通信の秘密は侵されない。
  • 憲法第19条(思想・良心の自由):思想及び良心の自由は、侵してはならない。

 参政党の「日本人ファースト」は、憲法第21条に基づく思想信条の自由として、政策主張の権利を持つ。一方、TBSの報道も、表現の自由として問題提起や批判を行う権利がある。しかし、メディアの影響力は「権力」として機能し、弱者(新興政党)の思想信条の自由を抑圧するリスクがある。憲法論的には、両者の自由の衝突を、選挙の公平性(公職選挙法)や放送倫理(放送法)で調整する必要がある。

第3章 強者と弱者の力関係(放送局の権力性)

 ア,メディアの強者性

 放送局は、視聴率や広告収入を背景に、巨大な影響力を持つ。TBSのような民放は、営利企業として視聴率を優先し、「刺激的なテーマ」(例:排外主義)を強調する傾向がある。これは、私が論考で指摘した「民放の営利性」(NHK報道被害)と一致する。TBSの「報道特集」が「外国人政策」を争点として取り上げ、参政党を批判的に描いたのは、視聴者の関心を引きつける戦略だった可能性がある。

 一方、公共放送(NHK)も、「公益性」を名目に特定の視点や価値観を優先することがある。私の経験では、NHKが音声の無断使用やパワハラを隠蔽し、朝日新聞が「円満降板」と虚偽報道した際、当事者(私)の声は一切反映されなかった。これは、メディアが「強者」として、都合のいい「物語」を構築する典型例だ。

 イ, 参政党の弱者性

 参政党は、新興政党として知名度やリソースが限られる「弱者」だ。選挙期間中、メディアが党の主張を「排外主義」と断定し、反論の機会を十分に与えない場合、有権者へのアピール機会が奪われる。これは、憲法第21条(表現の自由)や公職選挙法第148条(報道の自由)が保障する自由を、実質的に制限する結果となる。参政党がBPOに申し立てたのは、この力関係の不均衡を是正する試みといえる。

 ウ, 力関係の法的意義

 憲法論的に、表現の自由は強者(放送局)と弱者(新興政党)の間で平等に保障されるべきだが、現実にはメディアの影響力が圧倒的だ。放送法第4条(政治的公平性)は、この不均衡を是正するための倫理規範だが、法的強制力がないため、救済はBPOや民事訴訟に委ねられる。公職選挙法第148条も、報道の自由を広く認めるが、選挙の公平性を害する報道(例:事実の歪曲)は、倫理違反や名誉毀損として問題視される。

第4章 「日本人ファースト」の論点(思想信条の自由と排外主義の境界

 冒頭で紹介した筆者の論考「日本人ファースト」は、このスローガンが日本の文化や伝統を重視する立場から発せられ、必ずしも排外主義や差別を意図しないと主張しています。参政党の政策も、外国人政策における「優先順位」の議論として、「日本人ファースト」を掲げている。しかし、TBSはこれを「排外主義をあおる」と批判し、識者が「ヘイトスピーチを助長する」とコメントした。

 ア, 法的観点「思想信条の自由

 憲法第21条は、参政党が「日本人ファースト」を主張する権利を保障する。政策として、外国人に対する制限(例:生活保護の条件強化)を訴えることは、思想信条の自由の範囲内だ。ただし、表現がヘイトスピーチや差別扇動に該当する場合、国際人権規約(市民的及び政治的権利に関する規約第20条)や刑法(名誉毀損罪、侮辱罪)により制限されうる。

 TBSの報道が「排外主義」と断定した根拠は、「客観的な統計」と識者の意見だが、番組が参政党の政策の詳細(例:具体的な優先順位の提案)を検証せず、一方的に批判した可能性がある。これは、放送法第4条1項4号(多角的視点)に反するリスクを孕む。

 イ, 排外主義との線引き

 「日本人ファースト」が排外主義やヘイトスピーチに該当するかは、表現の具体性と文脈による。筆者の論考では、日本の文化的アイデンティティを重視する立場が、外国人排斥とは異なる文脈で語っている。参政党の政策も、犯罪や生活保護に関する主張がデータに基づく場合、単なる「差別」と断定するのは早計だ。

 しかし、番組が「外国人優遇はデマ」と断定した点は、検証が不十分だった可能性がある。放送法第4条1項3号(事実の正確性)に基づき、TBSは「デマ」とする統計の出典や、参政党の主張(例:外国人向け政策のコストデータ)を比較検討すべきだった。BPO審議では、この点が焦点となるだろう。

第5章 筆者の経験(メディアの「物語」構築の残酷さ)

 私の論考「NHK報道被害」では、NHK『おじゃる丸』の降板を巡る報道被害を詳細に記した。プロデューサーのパワハラや音声の無断使用を拒否した結果、降板させられ、朝日新聞やNHKが「円満降板」と虚偽報道。当事者(私)の声は一切聞かれず、「わがままで降板した」との誤解が広まった。

 2018年の『バイキング』出演時も、事前番組での虚偽(音声無断使用の時効主張)を正すため、声を上げる必要があった。この経験は、参政党のケースと共通する構造を持つ:

  • 当事者の声の排除:NHKやTBSが、当事者(私や参政党)の反論を無視し、一方的な「物語」を構築。
  • メディアの権力性:放送局の影響力は、弱者(個人や新興政党)の主張を埋没させる。私の場合、NHKの「公益性」を名目にした報道が、事実を歪曲。参政党の場合、TBSの「公益性」が、選挙の公平性を損なうリスクを孕む。
  • 法的救済の限界:放送法第4条は倫理規範に留まり、法的強制力がない。私のケースではBPO申し立てに至らなかったが、参政党のBPO申し立ては、メディアの責任を問う一歩となる。

第6章 民主主義の課題(報道の自由と選挙の公平性)

 ア,報道の自由「公益か、権力か?

 報道の自由(憲法第21条、公職選挙法第148条)は、民主主義の基盤だ。TBSは、外国人政策の争点化を問題提起し、視聴者に判断材料を提供したと主張。しかし、メディアの影響力は、視聴率やスポンサーの圧力(民放の場合)や「公益性」の名目(公共放送の場合)により、「権力」として機能する。私のNHK経験や参政党のケースは、メディアが「物語」を構築し、弱者の声を抑圧する危険性を示す。

 イ, 選挙の公平性「公職選挙法の役割

 公職選挙法第148条は、報道の自由を保障するが、選挙の公平性を害する報道(例:事実の歪曲、事前運動)は倫理違反となる。参政党のケースでは、選挙直前の批判的報道が、有権者の判断に影響を与えた可能性がある。放送法第4条(政治的公平性)は、このバランスを調整するが、曖昧な基準ゆえに、解釈が放送事業者に委ねられる問題がある。

 ウ, 思想信条の自由憲法の視点」

 参政党の「日本人ファースト」は、憲法第21条で保障される思想信条の自由の行使だ。メディアがこれを「排外主義」と断定する場合、事実に基づく検証と反論機会が必要。私の論考「日本人ファースト」が示すように、文化的アイデンティティの重視が、必ずしも差別を意図しない。メディアが一方的批判を行うと、思想信条の自由を抑圧し、民主主義を損なう。

第7章 解決策(メディアと市民の責任)

 ア,メディアの改善
  • 透明性の向上:放送局は、統計の出典や取材対象の選定基準を公開し、事実の正確性(放送法第4条1項3号)を担保すべき。
  • 反論機会の確保:選挙報道では、批判対象の政党に事前取材や反論の場を提供するガイドラインを設ける。
  • BPOの活用:BPOの審議を強化し、選挙報道の「質的公平性」を明確な基準で判断。
 イ, 市民の役割
  • メディアリテラシー:報道を鵜呑みにせず、政党の公式発表や政見放送(公職選挙法第150条)を直接確認。私の「テレビを見ない」選択は、メディアの「物語」に対抗する一つの方法だ。
  • 自己発信:Xやブログでの発信を通じて、市民が多様な声を広げる。私の論考や参政党の抗議は、この実践例だ。
  • 選挙参加:有権者として、報道に頼らず候補者の主張を聞き、投票で意思表明。
 ウ, 法改正の可能性

 放送法第4条の曖昧さを解消し、選挙報道のガイドライン(例:反論機会の義務化)を明確化。ただし、過度な規制は報道の自由(憲法第21条)を損なうため、慎重な議論が必要。

総括 思考を止めない自由

 参政党とTBSの衝突は、報道の自由、選挙の公平性、思想信条の自由のせめぎ合いであり、メディアの強者性と弱者の声を浮き彫りにする。私のNHK報道被害の経験は、メディアが「物語」を構築し、当事者を無視する残酷さを示す。放送法や公職選挙法は、これを調整する枠組みだが、完全な解決には至らない。

 私たちができることは、メディアの「編集された現実」を疑い、複数の情報源を比較し、「自分はどう思うのか」を問い続けることだ。筆者の論考が示すように、「日本人ファースト」のような主張を一面的に批判するのではなく、背景や文脈を検証する姿勢が、民主主義を守る。報道の自由は大切だが、絶対の正義ではない。思考を止めないことーーそれが、本当の自由への第一歩だと思います。

小西寛子のセカンドオピニオン・フォワード

●「戦後80年の日本の日本の夏を歌う」8月1日発売、小西寛子「遥カノ島」

2 Comments

  1. めめんと

    良記事です。
    普段気にしていない放送法・公職選挙法について、知れて良かったです。
    現状ではBPOや民事訴訟に委ねるしかないので、声の大きな方が真実だと思われてしまう可能性大ですね。
    ただ、この皆が忙しい現状では、じっくり検討できる人は少数かな。
    Xの140字のポストでさえ、すぐ鵜呑みにして脊髄反射をする人が多数です。
    長い正確な良記事を届けると共に、短い文しか読めない人達にどう届けるか?も重大な問題ですね。

    私は法律関係弱いので、小西さんの法律を用いての時事問題解説は助かってます。いつもありがとうございます。

    • コメント有難うございます!今の社会ではセンセーショナルな記事以外、
      ほとんどの客観的な論考はスルーされてしまうと思いますが、
      私は自分のできることがこれくらいしかないので、
      裁判でも使えそうな文章にするだけです。
      有難うございます。

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