消せない記憶、つなぐ灯
今日は七夕、来月の今頃は終戦に近い夏。この戦後80年という時を、私たちは今生きています。
80年前に生まれた人は当時まだ赤ん坊で、90歳の方でも子供だったでしょう。もう、戦争を自らの言葉で語れる人は僅かしか残っていません。
広島や長崎の空にきのこ雲が上がったあの日、罪のない人々が何を感じ、どんな思いで生き延び、そして命を落としていったのか。私たちは、それを本当の意味では知ることができません。
つい最近も、ある大国の指導者が「我々の攻撃は、まるで広島・長崎のように相手を大人しくさせた」と発言したと聞きました。けれど、その指導者自身も「核」という現実を知る世代ではありません。私は、この発言を心から理解することができませんでした。
戦争は、いつだって勝った側の正義が語られます。けれど、本当にそうなのでしょうか。戦争で最も苦しむのは、武器を持たない市民であり、子どもであり、愛する人を待つ家族です。
人間の尊厳は、戦争の勝敗によって測られるものではありません。どんな立場にあっても、どんな国に生まれても、私たち一人ひとりの命には、かけがえのない尊さがあります。
資本主義が進み、民主主義や社会主義が極端に傾くとき、人々は争いに巻き込まれ、弱き者の声はかき消されてしまいます。それでも、私は信じています。世界のどこかに、優しさを守ろうとする人が必ずいることを。
この80年の歩みをただの数字にしないために、私たちは語り継がなければなりません。戦争の悲劇を知る世代から、次の世代へ。言葉を超えて伝わる「平和を願う心」を、大切にしたいのです。
戦争の記憶を絶やさないこと。それは、未来の子どもたちが同じ過ちを繰り返さないための、私たち大人の責任でもあるのです
●8月1日発売、小西寛子「遥カノ島」