New York Stock Exchange, USA

ホルムズ海峡危機で株価・為替はどう動く?原油高と円安を先読みするアルゴリズム取引

ガソリンスタンドより先に動くのは、原油先物・ドル円・日経先物を読むコンピュータ!?

生活に関わる注目の動向、二日続けてお届けします。

昨日の記事では、ホルムズ海峡の危機が、日本のガソリン、灯油、物流、病院、介護、寒冷地の生活にどのように届くかを考えた。

日本にとって、遠い中東の細い海は、原油や燃料価格、そして私たちのインフラまで直結する「見えない動脈」である。前回の記事では、燃料危機は全国のタンクが一斉に空になってから始まるのではなく、価格、配送、心理、地域差として先に現れる、と整理した。

しかし、燃料が実際に生活現場へ届かなくなる前に、さらに早く動くものがある。「市場」である。そして現代の市場で最初に反応するのは、人間の投資家だけではない。

原油先物、為替、株価指数先物、米国債、金、海運・航空株。これらは、ニュースの見出し、政治家の発言、軍事衝突の速報、停戦協議の一文に、ほとんど瞬時に反応する。その反応を大きくしているのが「アルゴリズム」だ。

アルゴリズムとは簡単に言えば、市場に流れる情報を機械的に読み取り、「買う」「売る」「逃げる」「戻る」を自動的に判断するコンピュータの仕組みのこと。人間がニュースを読んで、「これは危ないのか」と考えるより前に、機械はすでに価格を動かしているのである。

市場は、現実ではなく「現実になりそうなもの」を売買する

ホルムズ海峡で危機が起きたからといって、株価が単純に下がり続けるとは限らない。「原油が上がる → ドルが買われる → 日本株先物が売られる」。その後、停戦協議の報道が出ると「原油が下がる → 米株先物が戻る → 日経先物も買い戻される」。

一般の感覚からすれば、「戦争のニュースなのに、なぜ市場は楽観しているように見えるのか」と支離滅裂に映るかもしれない。だが、市場は現実そのものを見ているのではない。「これから現実になりそうなもの(未来のシナリオ)」を先に価格へ変換しているのだ。

「最悪シナリオはまだ確定していない」と判断されれば買い戻しが入り、「報復が強まるかもしれない」と読まれれば原油はまた上がる。相場とは未来を当てる装置ではなく、不安と期待を先回りして価格に変える装置である。

ホルムズ海峡が市場に与える最初の衝撃

ホルムズ海峡は、世界有数の石油輸送の要衝だ。米エネルギー情報局(EIA)は、この主要な海上チョークポイントが一時的にでも通れなくなれば、供給遅れや輸送費上昇を通じ、世界のエネルギー価格を押し上げる可能性があると説明している。

日本にとって、これは切実な問題だ。資源エネルギー庁の資料(2025年)によれば、日本の原油は中東依存度94.0%、ホルムズ海峡依存度93.0%に達している。

この海峡の不安は、原油価格、ガソリン、電気代から食品価格、円相場にまで連鎖する。市場のアルゴリズムは、この連鎖を人間より早く読もうとする。

「タンカー被弾」「封鎖」「米軍」「停戦」といった言葉が流れると、まず原油先物(今の価格ではなく、数ヶ月後に決まった値段で売買する予約チケットのようなもの)が反応する。実際の原油がタンカーで運ばれてくるより前に、この「予約価格」が跳ね上がり、そこから金利や為替、株価指数へと波及していく。生活者がガソリンスタンドの価格表示を見て危機を感じるよりもずっと早く、市場は危機を織り込み始めるのだ。

原油・為替・日経先物の現在地

22026年7月22日朝(日本時間)に確認した遅延表示ベースの主要市場の数値は、以下の通りである。

  • Brent(ブレント)原油先物:91.05ドル前後
    ※欧州の北海産原油。世界の原油価格を見るうえで、代表的な基準の一つとなる。
  • WTI原油先物:84.58ドル前後
    ※米国産原油の代表的な指標。Brentと並び、国際的な原油相場を見る際によく参照される。
  • ドル円:1ドル=163.15円前後
    ※日本にとっては、原油高と円安が重なると、輸入コストや生活コストへの圧力が強まりやすい。
  • 日経225先物(CME円建て):67,240円前後
    ※CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)で取引される、日本株の先物指標。日本の現物市場が閉まっている夜間でも動くため、翌朝の日本株の方向感を見る材料になる。

※上記はいずれもYahoo Finance等の遅延表示値をもとにした目安であり、実際の市場価格は短時間で変動する。

数字だけを見れば、海外市場は全面的なパニックには陥っていないように見える。だが、原油は90ドル台前半、為替は163円台前半にあり、日本にとっては「原油高」と「円安」が同時に重なる構図である。株価指数が上がって見えても、生活コストへの圧力が消えたわけではない。

アルゴリズムとは何か――「人間より速い市場の反射神経」

アルゴリズム取引とは、あらかじめ決められた条件に従い、コンピュータが自動的に注文を出す仕組みだ。

「原油が一定以上上がったら、燃料費がかさむ航空株を売る」「ニュースに“ceasefire(停戦)”が出たら原油買いを減らす」「価格が一定幅を超えたら損失を止めるために自動で売る」など、現代市場の「反射神経」として機能している。熱いものに触れたとき、人間が考える前に手を引っ込めるように、機械も条件が揃えば考える前に売買を行う。

米国の金融規制局(FINRA)や商品先物取引委員会(CFTC)も、この自動売買が市場の安定に影響を及ぼす可能性があるとして、リスク管理の重要性を説いている。アルゴリズムは陰謀ではなく現代市場の標準機能だが、同時に、危機のときには値動きを速め、時に過剰反応を生む要因にもなる。

大統領の発言と、言葉を読むアルゴリズム

ホルムズ海峡危機において、米国大統領などの政治家の発言は、市場にとって価格に変換される重要な材料だ。

強硬な発言が出れば「軍事衝突が長引く=インフレ再燃・株式への逆風」と読まれ、停戦や協議の発言が出れば「原油供給不安が和らぐ=株式への安心感」と読まれる。Reutersの報道でも、トランプ大統領の和平や航行再開に関する発言が、原油市場の強気派の見方を何度も揺さぶったと分析されている。

重要なのは、大統領の一言で世界が決まるというより、その一言をアルゴリズムが見出しとして読み、瞬時に売買を判断しているという事実だ。

アルゴリズムは人間のように世界情勢を総合的に理解しているわけではない。「attack」「retaliation(報復)」「Hormuz」「peace talk(和平協議)」といった、危機や緩和を示す言葉に反応することがある。ニュースが出た瞬間に価格が跳ね上がり、その後、人間が意味を咀嚼して行き過ぎた分が戻る。これが、危機時の市場の動きが分かりにくく見える最大の理由である。

一般人が見るべき四つの数字

専門家でなくても、市場の空気を感じ取るために確認できる四つの指標がある。

  1. 原油価格(BrentやWTI): エネルギーコストへの警戒感を示す。ホルムズ危機で早く反応しやすい。
  2. ドル円: 中東リスクでのドル買いに加え、日本にとっては「原油高+円安」という輸入コストの二重苦を測るバロメーター。
  3. 日経平均先物: 前述の通り、現物株市場が開く前に、海外投資家やアルゴリズムの反応を先取りして夜間から動いている指標。
  4. 米株先物と米金利: 世界のリスク判断の中心。株先物が戻っていても、金利や原油が同時に上がっていれば安心とは限らない。

「株が上がった・下がった」だけでなく、この四つのバランスを見ることで、市場の本当の構造が見えてくる。

市場の「楽観」に騙されず、生活への影響に備える

市場を見るうえで最も注意すべき誤解は、「株価が上がったから安全」「原油が下がったから危機終了」という見方だ。市場が上昇(回復)して見えても、そこには様々な「中身」がある。

  • 空売りの買い戻し: 「これから下がる」と予想して先に売っていた投資家が、予想に反して相場が上がり始めたため、損失を避けるために慌てて買い戻す動き。
  • アルゴリズムの単語反応: コンピュータが「停戦」という見出しの文字面だけに反応した瞬間的な上昇。
  • オプション市場のヘッジ: 「大暴落」に備えた金融上の保険契約(オプション)の調整によって、機械的に発生する買い。

状況が本当に改善した場合もあるが、こうした市場のシステム上の理由で株が上がることもある。

日本には約8か月分(248日分)の石油備蓄があり、これが重要な安全弁となる。しかし備蓄は「時間を買う」仕組みであって、価格上昇や物流コスト増を消し去る魔法ではない。

ホルムズ海峡の危機は、まず市場の数字に出る。次に企業のコストに出る。そして最後に、物流、燃料価格、家計といった私たちの生活現場へ届く。生活の前に、価格が不安を映し出すのだ。 そして現代では、その価格を最初に動かしているのは、アルゴリズムという「見えない市場の脳」であることを、私たちは知っておく必要がある。

編集上の注記

本稿は、ホルムズ海峡情勢、原油価格、為替、株価指数先物、アルゴリズム取引の関係を一般読者向けに整理した市場構造の解説であり、特定の金融商品の売買を勧めるものではない。市場価格、政治発言、軍事情勢は短時間で変化するため、掲載時点の最新価格・最新発表・一次資料を確認する必要がある。

参考・確認資料

・Hiroko Konishi「ホルムズ海峡。ガソリン・灯油危機は『ゼロ』になる前に始まるーー日本の燃料危機・3つの時間軸シミュレーション」ANALOGシンガーソング、2026年7月21日。前回記事として、日本の燃料危機を72時間、1〜2週間、1〜3か月の時間軸で整理。

・U.S. Energy Information Administration, “Amid regional conflict, the Strait of Hormuz remains critical oil chokepoint.” ホルムズ海峡が世界の石油輸送上の主要チョークポイントであり、一時的な通航障害でも供給遅延・輸送費上昇・エネルギー価格上昇につながり得ると説明。

・資源エネルギー庁「中東情勢を受けた経済産業省の対応について」2026年6月。2025年の日本の原油について、中東依存度94.0%、ホルムズ依存度93.0%を示す。

・資源エネルギー庁「今こそ知りたい、日本の『石油備蓄』のしくみとは?」2026年1月末時点で、7,289万キロリットル、約8か月分、248日分の石油備蓄があると説明。

・Reuters, “Oil prices dip as mediation efforts offset US-Iran strikes,” 2026年7月21日。停戦仲介期待が原油価格を下げる方向に働いた一方、米国・イラン対立、タンカー被害、報復警告などが警戒材料として残ると報道。

・Reuters, “Why oil prices haven’t gone crazy despite 5 months of US-Iran war,” 2026年7月20日。ホルムズ海峡をめぐる供給不安、原油価格の上限観測、トランプ大統領の和平・航行再開発言が市場の見方を揺さぶったことを分析。

・FINRA “Algorithmic Trading.” アルゴリズム取引や高頻度取引の広がりに伴い、市場や金融機関の安定に悪影響を及ぼす可能性があるとして、監督・リスク管理の重要性を説明。

・CFTC “CFTC Unanimously Approves Proposed Rule on Automated Trading.” 自動売買に関するリスク管理、注文サイズ、注文メッセージ、システム開発・テスト・監視などの管理枠組みについて説明。

・Bank for International Settlements “FX execution algorithms and market functioning.” 外国為替市場における執行アルゴリズムの利用拡大と、市場機能への影響・新たな課題を整理。

・Yahoo Finance “Brent Crude Oil Last Day Financial Futures (BZ=F).” 2026年7月22日朝・日本時間確認時点で、Brent原油先物は91.05ドル前後の表示。(finance.yahoo.com)

・Yahoo Finance Canada “Crude Oil Sep 26 (CL=F).” 2026年7月22日朝・日本時間確認時点で、WTI原油先物は84.58ドル前後の表示。(ca.finance.yahoo.com)

・Yahoo Finance “USD/JPY (JPY=X).” 2026年7月22日朝・日本時間確認時点で、ドル円は1ドル=163.15円前後の表示。(finance.yahoo.com)

・Yahoo Finance “Nikkei/Yen Futures, Sep-2026 (NIY=F).” 2026年7月22日朝・日本時間確認時点で、CME日経225円建て先物は67,240円前後の表示。(finance.yahoo.com)

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