犬丸りんさんの20年目の命日に、おじゃる丸に込められた心を、もう一度考えてほしい。

犬丸りんさんの20年目の命日に、おじゃる丸に込められた心を、もう一度考えてほしい。

2026年9月10日。今日は、NHK『おじゃる丸』の原作・原案者である犬丸りんさんの命日です。

犬丸さんが亡くなってから、もう20年になります。

20年という時間は、世の中では「昔のこと」と呼ばれる長さなのかもしれません。
けれど私の中では、犬丸りんさんの自死に至る無念な思いと共に、あの日から何も終わっていません。

犬丸さんのことをふと思い出す時、私はまず、自分の声でありながら『おじゃる丸』の声を思い出します。
ゆっくりとしていて、幼くて、気品があり、少しこの世から浮いているようで、それでいて誰よりも深く世界を見ている声。

あの声は、ただ可愛らしく作った声ではありません。
また、台本の文字を読んだだけで自然に出てきたものでもありません。

犬丸さんの世界に触れ、犬丸さんの痛みに触れ、犬丸さんが大切にしていたものを受け取って、一人で考え、私はおじゃる丸の声を作りました。間の取り方、息の置き方、言葉の丸み、幼さの奥にある孤独、気品の奥にある寂しさ。まったり。それらは、犬丸さんが生み出したおじゃる丸という存在の中に、私とシンクロするように、どこか最初から宿っていたものでしょう。

私は今も思っています。
犬丸さん自身が、声なきおじゃる丸の姿だったのだと。

『おじゃる丸』は、ただの子ども向けアニメではありませんでした。
そこには、大人社会への違和感がありました。
弱いもの、小さいもの、うまく声を上げられないものへのまなざしがありました。
子どもたちへ向けた道徳があり、未来への静かな警鐘がありました。

派手に叫ぶのではなく、まったりと、しかし深く。
笑いの中に、やさしさと孤独を忍ばせる作品でした。

犬丸さんは、私の声でなければ仕事ができないと、亡くなる最後の最後まで言ってくれました。
その言葉を、私はいつまでも忘れることができません。

亡くなった時の報道などで、犬丸さんは「仕事ができない」と書かれた遺書を残して亡くなったと報じられています。けれど私は、その言葉の切り取られた意味を、心を知るものとして、単なる仕事上の行き詰まりとして皆さんにお伝えすることはできません。

やりたいのに、できない。
それは、作りたいのに、思うように関われない。しまいには現場から外されてしまった。
自分の分身のように生み出した作品が、自分の手の届かない場所へ運ばれていく。
大切にしていた思想や心情が、少しずつ違う形に組み替えられていく。

「声のイメージが違う。これではイメージがわかない、仕事ができない」。その言葉は、私にとって、おじゃる丸である、彼女の体の一部が彼女から切り取られたように聞こえました。

私は、役に声を当てるだけでなく、その人の心や作品の奥にあるものを全身で受け取って演じてきました。だからこそ、その苦しみが犬丸さんの中にどれほど積み重なっていたのか、私には痛いほどわかります。

そして私には、「私の作品なのに、私が参加させてもらえない」という声が、犬丸さんの最大の叫びとして聞こえています。

犬丸りんさんの意思を引き受けた演者としてよくわかります。私の演技を理解していただいた原作者の方は皆知っているはずです。私は全身で感じます。『おじゃる丸』は、犬丸さんの作品でした。犬丸さんの分身でした。
そして私の声は、その分身に命を通すために、犬丸さんから私へ委ねられ、魂を入れた声でした。

もし作品が誠実に扱われていたなら。犬丸さんは作品を続け、私は犬丸さんの思いを演じていた。
ただ、それだけのことだったはずです。

けれど、人気が出るにつれて、作品の中心にいるべき人たちが、少しずつ脇へ追いやられていきました。
紅白歌合戦のような大きな場面でも、「大御所が歌うから」と、主役である私の存在は省かれました。
表に出るのは作品名であり、キャラクターであり、人気でした。
けれど、その作品を生んだ人、その声を作った人、その世界を支えていた心は、どこへ置かれていたのでしょうか。

犬丸さんが大切にしていたものは、少しずつ削られていった。私は、それを見てきました。また、犬丸さんを苦しめたものは、それだけではありませんでした。仕事がしにくくなる現場周辺の環境と並行して、ネット上の心ない言葉も、激しさを増して犬丸さんに向けられていました。匿名の場所から投げられる言葉。誰かの人生も、傷つきやすさも、ぎりぎりの精神状態も考えない言葉。それらが、犬丸さんの心にどれほど重くのしかかっていったか。

犬丸さんは、自分の分身である作品から遠ざけられる苦しみの中にいました。その上に、ネットの言葉が重なっていた。私は、この二つを切り離して考えることはできません。

ネット上での誹謗中傷は私にもありました。同じおじゃる丸関連で、「高額なギャラを要求しておじゃる丸を降ろされた」「声優を引退した」「事務所が問題を起こした」など。自分のためと、犬丸さんのような弱い方のためと思って勉強した法律は、後の私の裁判では役に立ちましたが、彼女のためには間に合いませんでした。今でもそれは後悔しています。

私は、自分で名誉毀損告訴などの事務をこなし、ネットを利用した犯罪に立ち向かった時に、警察などとの調べの中で、業界人などによる組織的な書き込みの事実もつかみました。私のおじゃる丸関連の名誉毀損事件は、有罪で結論づいています。

だからこそ、私は知っています。ネットの言葉は、ただの言葉ではない。人の人生を壊すことがある。仕事を奪い、名誉を傷つけ、心を追い詰めることがある。犬丸さんの自死に至る経緯について、私は何度も調べました。けれど、そこには今も厚い暗がりがあります。所轄の武蔵野警察署でさえ、犬丸さんがそこへ至るまでの経緯を深く調べたとは、私には思えません。私は今も、そこに大きな未解明のまま残されたものがあると思っています。

犬丸さんは、どのような思いで、あの日を迎えたのでしょうか。
お母さまを残してまで命を絶たなければならなかった、その心の奥に、何が積み重なっていたのでしょうか。

先ほども書きましたが、「仕事ができない」という言葉。それは、犬丸さんが最後に残した、短く、重い言葉です。

なので、20年の節目に、犬丸さんが関わっていた頃の『おじゃる丸』を、もう一度見てほしい。犬丸さんが本当に子どもたちへ届けたかったものは何だったのか。小さな命へのまなざし、弱いものへのやさしさ、大人社会への静かな問いかけは、どこまで守られてきたのか。

作品には、作者の心があります。キャラクターには、生み出した人の魂があります。そして声には、その魂に触れるために重ねた時間と責任があります。

作品が長く愛されることは、大切なことです。子どもたちに届き続けたこと、見てくれた人たちの思い出になっていること、それ自体を私は否定しません。けれど、長く続いたという事実だけで、すべてが美しくなるわけではありません。人気があるという理由だけで、置き去りにされた人の痛みが消えるわけではありません。

天国の犬丸さんに伝えたいのは、あなたが大切にしていたおじゃる丸は、私の中では今も、あなたの分身です。と。

子どもたちに届けようとしたやさしさ。社会へ向けた静かな警鐘。言葉にならなかった痛み。その奥にあった怒り、孤独、祈り。私は、それを声にしたつもりです。

今日は、あなたの命日です。

この日に、私はただ悼むだけではなく、思いを残したいと思います。

『おじゃる丸』とは何だったのか。
犬丸さんは、何を守ろうとしていたのか。
「仕事ができない」という言葉の奥に、どれほどの無念があったのか。
そして、作品を愛するとは、作者の心を置き去りにしないことではないのか。

犬丸さんの無念を、私は忘れません。
犬丸さんが託してくれた思いを、私は忘れません。
そして、犬丸さんを傷つけた言葉の重さも、決して忘れません。

資料・出典

  • 毎日新聞配信記事アーカイブ「犬丸りんさん 飛び降り自殺か 母親あてに遺書 東京」。犬丸りんさんが2006年9月10日に亡くなったこと、「仕事ができない」と書かれた母親宛ての遺書が見つかったこと、『おじゃる丸』原案者であったことを報じている。
  • デイリースポーツ「『おじゃる丸』原案者 漫画家・犬丸りんさん、飛び降り自殺『仕事ができない』」。2006年9月10日の死亡、遺書、仕事上の悩みが原因とみられていたことを報じている。
  • NHKグループモール/NHKエンタープライズ「アニメ『おじゃる丸』30thアニバーサリープロジェクト」。『おじゃる丸』が1998年10月5日に放送開始したこと、原案の犬丸りんさんを番組史の中心人物として記載している。
  • アニメイトタイムズ「おじゃる丸|作品情報」。『おじゃる丸』がNHK Eテレで1998年10月5日から放送され、キャスト欄に「おじゃる丸:小西寛子→西村ちなみ」、スタッフ欄に「原案:犬丸りん」と記載している。
  • 国立国会図書館サーチ『NHKおじゃる丸:おじゃる丸まったり登場!』。1998年刊行、著者・編者欄に「犬丸りん さく」と記載されている。
  • WEBザテレビジョン「おじゃる丸 第1シリーズ」。第1シリーズの放送期間を1998年10月5日から1999年2月9日、出演者に小西寛子、スタッフに犬丸りん(原作・構成)と記載している。
  • 日刊スポーツ「おじゃる丸声優、音声の無断流用でNHK告発」。小西寛子が初代おじゃる丸声優であり、音声商品の無断流用や降板経緯について告発したことを報じている。
  • 日刊スポーツ「おじゃる丸声優が涙でNHKに『納得できる説明を』」。小西寛子の訴え、NHK側の回答、小西寛子の反論を報じている。
  • J-CASTニュース「小西寛子、おじゃる丸役を『強制降板』と告発 NHKは否定、事務所は大反論」。告発内容、NHK側の否定、事務所側の反論を併記している。
  • デイリースポーツ「おじゃる丸声優、18年後の告発に売名の声も真っ向否定」。小西寛子が番組出演で降板経緯、音声流用問題、NHK側回答への反論を語ったことを報じている。
  • ねとらぼ「『おじゃる丸』役・小西寛子の名誉を毀損する書き込みの疑い 容疑者が書類送検に」。小西寛子に対する「NHKに高額なギャラを要求しておじゃる丸を干された」等の書き込みについて、名誉毀損の疑いで書類送検されたことを報じている。
  • 小西寛子公式サイト「元おじゃる丸声優、小西寛子手記『わたしを降板させたNHKに告ぐ!』」。降板経緯、ネット上の事実無根の書き込み、犬丸りんさんの命日についての追記を含む本人公式手記。
  • 小西寛子公式サイト「NHKとの契約不存在と声優降板の真実2」。音声利用、契約書不存在、警察・警視庁の捜査に関する本人公式手記。
  • 小西寛子公式サイト「私はこうして『BAN祭り』ページを凍結させた」。ネット中傷、名誉毀損罪での起訴・有罪、関連書き込みの内容について記した本人公式手記。

宜しければ、一番下のコメント欄に足跡を残していってください。できれば私にではなく、犬丸さんへのメッセージだと嬉しいです。

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