AIと考えた未来図──2035年の世界各都市を「政策目標」ではなく、資源・技術・物流から考える

AIと考えた未来図──2035年の世界各都市を「政策目標」ではなく、資源・技術・物流から考える

2035年の都市を私のラボのAIと描いてみた。モスクワ、ロンドン、ロサンゼルス、テヘラン、東京、そしてイエメンなど。最初は「10年後の街はどうなっているだろう」という単純な発想だった。しかし調べ始めると、未来を考えるために本当に重要なのは、高層ビルや自動運転車の数ではないことが見えてくる。

私はAI研究をしているので、技術の未来を考えるときにも「現在の強者がそのまま10年後も強者である」という前提を置かないようにしている。政府や国際機関が公表する2030年、2035年、2050年の計画も重要だが、それは目標であって未来そのものではない。エネルギーはどこから来るのか。冬に電力は足りるのか。原子力の燃料は誰が供給するのか。船はホルムズ海峡、バブ・エル・マンデブ、紅海、スエズを安全に通れるのか。食料や肥料はどこから来るのか。制裁や輸出規制を受けた国は、本当に何もせず従い続けるのか。高性能AIが公開され、世界中で複製される時代に、技術を一国だけで囲い込めるのか。

今回の「AIと考えた未来図」は未来予言ではない。2026年9月現在、確認できる事実から、それぞれの都市を支えている「依存関係」を約10年先まで延長してみる試みである。

米国と中国──2035年にも米国が技術の中心とは限らない

ロサンゼルスには、自動運転車や配送ロボットを走らせた。ただし「米国は2035年にも当然、世界の最先端技術を独占している」という前提では描いていない。

AIではすでに大きな変化が起きている。スタンフォード AI インデックス 2026(Stanford AI Index 2026)は、米中の最上位AIモデルの性能差について「事実上閉じた」と評価している。2025年初頭以降、米国と中国のモデルは何度も首位を入れ替え、2026年3月時点では最上位同士の差は2.7%だった。一方、米国は著名な最先端モデルの数や民間投資では依然として大きく先行するが、中国はAI論文数、引用、特許件数、産業用ロボット導入などで非常に大きな規模を持つ。つまり、すでに「米国が研究し、中国が追随する」という単純な関係ではない。

さらに重要なのがAIの公開化だ。厳密には、学習データや全コードまで公開する完全なオープンソースと、モデルの重みを公開するオープンウェイト(open-weight)は区別する必要がある。しかし社会的な意味は大きい。一度高性能なモデルが公開されれば、世界中の研究者や企業が複製し、量子化し、蒸留し、追加学習し、異なるハードウェアへ移植できる。Hugging Faceの2026年の分析でも、中国ではDeepSeek以降、公開モデルを中心とした開発が急増し、オープンなAI開発が主要戦略の一つになっている。

輸出規制は無意味ではない。最先端半導体や製造装置へのアクセスを制限すれば、計算コストを上げ、開発を遅らせることはできる。しかし、それと技術の拡散そのものを止めることは別問題だ。アルゴリズムやモデルが公開され、自国製ハードウェアへ適応されるようになれば、規制する側が永続的に優位を固定できる保証はない。むしろ依存関係を政治的な圧力として使用するほど、相手側にはその依存をなくす動機が生まれる。

だから、私は、2035年に中国があらゆる技術で米国を上回る、と決めつけてはいない。しかし、米国の技術的優位が現在の形のまま残るという想定も置いていない。 AIではすでに首位が入れ替わる状態に入り、公開型技術によって知識の国境も薄くなっている。2035年は、一国の「技術覇権」より、複数の技術圏が競争する世界になっている可能性がある。

AIの生成した写真のロサンゼルスには、高度なAI技術だけでなく、古い道路やテントも残っている。LA郡では2026年のホームレス人口が前年比1.2%、屋外生活者が3.3%増えている。高度なAIがあることと、住宅や格差の問題が解決することは同じではない。

欧州──「再生可能エネルギーが増えた」だけでは2035年を読めない

欧州の未来は、年間の発電構成だけを見ると見誤りやすい。EUは2024年、必要なエネルギーの57%を純輸入に依存していた。輸入エネルギーの中心は石油と天然ガスである。

ロシアのパイプラインガスを大幅に減らした後、EUはノルウェーのパイプラインガスとLNGへの依存を強めた。2025年にはEUが輸入したLNGの56%を米国が供給している。パイプラインガスではノルウェーが52.1%を占めた。つまり「ロシア依存をなくした」ことと「エネルギー依存をなくした」ことは同じではない。依存先と輸送方式が変わったのである。

再生可能エネルギーにも地域特性がある。欧州の冬は日照時間が短く、暖房需要が大きい。2025年には寒い冬に加え、風力と水力の出力が弱く、EUのガス火力発電は約8%増加した。年間では太陽光や風力が大量に発電できても、風も弱く、太陽も出ず、寒さによって需要が急増する数日から数週間をどう乗り切るかは別問題である。

原子力も同様だ。発電された電力だけを見れば域内電源だが、燃料まで追うと別の姿が見える。2025年にEUの電力会社へ供給された天然ウランの域内産は0%で、カナダ36.7%、カザフスタン20.3%、ロシア16.0%、ウズベキスタン10.4%だった。転換サービスの24.4%、濃縮サービスの22.6%もロシア由来だった。ただしEU自身の濃縮能力も大きく、2025年には濃縮サービスの72.9%をEU域内が供給している。したがって「原子力もロシアがなければすぐ止まる」という話ではないが、天然ウランから転換、濃縮まで含めれば完全な自給でもない。

そこへ海上輸送の問題が加わった。EIAのタンカー追跡データでは、バブ・エル・マンデブを通過するLNGは2026年第1四半期の1日30億立方フィートから、第2四半期には記録上ゼロとなった。2026年の中東戦争ではホルムズ海峡の混乱とLNG施設への被害も発生し、IEAは世界の天然ガス市場が大きく歪められたと分析している。9月3日時点でも欧州委員会は、カタールのLNG生産が停止したままだと報告している。

一方、同じ欧州委員会は現時点でEUに「直ちにガス供給危機がある」とは判断していない。これはEU独特の見方もあるが、LNG受入能力の拡大、需要削減、輸入元の分散、備蓄があるからだといい。これは重要な反証材料である。

つまり2035年の欧州を決める問いは、「再エネが何%になったか」だけではない。暗く寒い冬に、どの燃料を、どの輸送路から、どの価格で確保し、鉄鋼、化学、肥料、輸送、暖房まで維持できるのか。 安全保障の議論を軍事費だけで見るより、この物理的な制約を含めて見る必要がある。また、写真はドイツだが、政治的右傾化などの側面もある。

ロンドン──北海があっても、輸入国へ戻った英国

ロンドンはEUではないので、EU平均をそのまま当てはめることもできない。英国には北海油田・ガス田があり、ノルウェーともパイプラインでつながっている。しかし北海生産はピークを越え、英国は2004年以降再びエネルギー純輸入国になった。2024年の純輸入依存度は43.8%で、2014年以来最も高かった。

2025年にはノルウェーが英国の輸入天然ガスの約70%、米国がLNG輸入の76%を供給した。一方、カタールは英国の総ガス供給では約1%にすぎなかった。したがって「カタールが止まれば英国のガスも止まる」という構図ではない。しかし米国・ノルウェーへの集中、世界LNG価格、北海生産の低下という別の依存構造がある。

ちなみに、写真のロンドンは、現在の政策的なものを延長している。人種問題など2035年になっても続く。都市の仕事の多くはAIではなく、水道を直し、送電網を更新し、住宅を建て、洪水を防ぎ、エネルギーを確保することかもしれない。

モスクワ──「西側から切り離された」ことと「世界から切り離された」ことの違いがわかる社会

ロシアには西側の制裁が続いている。2026年9月18日には米国でリンジー・O. グラハム制裁ロシア・イラン法(Lindsay O. Graham Sanctioning Russia and Iran Act)が成立し、ロシアに対する制裁・関税権限がさらに拡大された。

ただし、制裁によってコストが発生することと、世界との経済接続そのものがなくなることは同じではない。BRICSは現在、世界人口の48.5%、購買力平価ベースGDPの約39%を占め、原油生産の43.6%、天然ガス生産の36%を構成するとBRICS側は集計している。加盟国間には大きな利害の違いがあり、西側の代替となる統一政治圏ではない。それでもロシアに中国、インド、中東などとの貿易・金融経路が存在することは、「西側市場から離れれば完全に孤立する」という前提を弱める。

IMFに掲載された2026年の地経学分析も、ロシアが2014年以降に決済インフラや中国との金融接続を整えたことが、後の金融制裁への適応能力を高めたと分析している。制裁が効かないという意味ではない。重要なのは、圧力を繰り返すほど、受ける側にも回避網を作る合理的な動機が生まれるという点である。

モスクワ市内では別の変化も進んでいる。2026年には無人運転トラムが定期運行され、市交通当局は2030年に車両の約3分の2、2035年には約90%へ自動運転技術を導入する計画を示している。

写真のモスクワは「崩壊した制裁都市」にも、「勝利した未来都市」でもない。2035年にあり得るのは、西欧との接続が弱くなった一方、ユーラシア、アジア、中東との接続を拡大し、都市内部の技術更新は別の速度で続いている姿である。

東京──高度な都市ほど、外から運ばれてくるものが多い

東京についても、スマートシティ計画だけを見て2035年を考えることはできない。日本の2024年度エネルギー自給率は16.4%である。原油は99.7%を輸入に頼り、その95.1%を中東から調達していた。UAE43.7%、サウジアラビア40.0%だけで8割を超える。

そして2026年、この弱点は仮定ではなく現実になった。ホルムズ海峡をタンカーが実質的に通航できない状態が長期化し、中東から日本への原油輸入が大きく減少したため、経済産業省は3月24日、1か月分に相当する国家備蓄原油の放出を決めた。

LNGの供給元は原油より分散している。2024年には豪州38.2%、マレーシア15.5%、米国9.6%、ロシア8.6%などだった。これは日本にとって重要な緩衝材である。しかし日本はLNGそのものを海外に依存しており、世界的なLNG供給が減れば、直接中東から買っていない貨物についても価格や調達競争を通じて影響を受ける。

原子力も万能な国内資源ではない。日本には濃縮技術と燃料加工能力がある一方、資源エネルギー庁は世界的なウラン需要増とロシア依存低減による需給逼迫を認識し、ウランを「特定重要物資」に指定して国内濃縮能力の強化を進めている。

そして食料である。2025年度の日本のカロリーベース食料自給率は37%だった。東京という巨大都市は、電気、水、燃料、食料、肥料、物流の巨大な流れが毎日正常に動くことで成立している。

外交上の評価については区別しておきたい。2026年の東南アジア調査では、日本は主要国の中で依然最も信頼され、65.6%が「信頼する」と答えている。したがって「日本はすでに世界の信頼を失った」と書くのは現在のデータに合わない。問題は、米国への安全保障依存が強い状態でアジアの多極化が進んだとき、現在持っている信用を2035年にも維持できるのかという将来の分岐である。

東京の写真に豪雨、道路工事、排水設備、自動運転車、通勤する人々を同時に置いたのは、そこに理由がある。東京の未来を決めるのはAIの性能だけではない。海の向こうから必要なものを運び続け、災害が起きても1,000万人規模の都市生活を止めない能力の方が重要かもしれない。

テヘラン──戦争による損失と、地域的な重要性は同時に存在する

イランについては、現在の厳しい状況を飛ばして「2035年には地域を牽引する」と決めるべきではない。IMFは2026年の実質GDPを5.4%減と予測している。世界銀行も、戦争によるインフラ被害、エネルギーと水不足、投資低迷、貿易経路への障害を重大な制約として挙げている。

しかし、短期的な経済縮小と長期的な地政学的重要性は同じではない。2026年の中東戦争ではホルムズ海峡の混乱だけで世界の石油・ガス市場が大きく動いた。IEAによれば、中東のLNG輸出施設への被害と海峡の混乱は世界の天然ガス市場の中期見通しまで変えている。

イランは約8,800万人の人口を持ち、BRICSにも参加している。ロシア、中国、インド、湾岸諸国、中央アジア、南アジアを結ぶ位置にあるという地理は、戦争によって消えるものではない。

だから2035年のテヘランについては、二つの未来を残しておく必要がある。戦争、制裁、水・エネルギー問題が長期化すれば、復旧は大きく遅れる。一方、戦後の復旧と周辺国との経済接続に成功すれば、エネルギー、物流、人口規模、地理を背景として、中東の複数の主要な中心の一つになる可能性はある。 これは現在確認された事実ではなく、条件付きの2035年シナリオである。

写真ではテヘランを欧米都市のコピーにはされていない。公共交通やEV、緑化が進んでも、建築、商店、人々の生活文化は残る。発展することと西洋化することは同義ではない。

イエメン──「普通の生活」を取り戻すこと自体が大きな未来になる

話題のイエメンも加えてみたが、単純な「成長国」として扱うことはできない。経済は依然として非常に脆弱で、IMFは外貨準備が限られ、送金と国際支援への依存が続くとしている。ただし2027年には、地域情勢の改善を前提に経済が安定へ向かうシナリオも示している。

一方、都市レベルでは復旧がすでに進んでいる。世界銀行とUNOPSの事業では、約300万人が基本的な都市サービスを再び利用できるようになり、240キロの道路が修復され、120万人の水・衛生環境が改善した。続く事業では19都市を対象に、道路、水、衛生、安定した電力、洪水対策などが整備され、病院や学校向け電力の多くには再生可能エネルギーが使われる計画である。

今回生成したイエメンの2035年に超高層ビルを並べなかったのはそのためだ。水道が使える。病院の電気が止まらない。学校が開いている。安全に市場へ行ける。道路が修復され、伝統建築の屋根には太陽光パネルがある。

世界のある都市では自動運転タクシーが「未来」であり、別の都市では安定した水と電気が「未来」になる。出発点が違えば、進歩の意味も違う。

2035年──強い国より、「止まりにくい社会」が重要になる

AI研究者としてAIを動かし、六つの都市を作りながら考えたのは、2035年の強さを軍事費やGDP、AIモデルのランキングだけで測れるのだろうか、ということだった。

米国は現在も巨大な資本、データセンター、半導体設計能力を持つ。しかしAIでは中国との性能差が急速に縮まり、公開モデルは世界中へ拡散している。欧州は再生可能エネルギーを大きく増やしたが、冬季需要、天然ガス、天然ウラン、海上輸送という制約が残る。日本は高度な都市と製造業を持ちながら、一次エネルギーの8割以上を国外に頼り、原油の約95%を中東に依存する。ロシアは西側との経済関係を失う一方で、別の貿易・金融ネットワークを拡大している。イランは戦争で大きく傷つきながらも、地理的重要性を失ってはいない。そしてイエメンは、壊れた基盤を再建することによって大きく変わる余地を持つ。

制裁、関税、輸出規制、金融遮断といった圧力手段も2035年になくなるわけではない。ただし、依存関係を圧力として使えば、相手側には代替技術、別の決済網、別の輸送路、別の取引相手を作る理由が生まれる。圧力が短期的に有効であることと、それが何十年も同じ威力を保つことは別問題である。

そしてAIも同じだ。一度公開された知識やモデルを、国境の内側へ戻すことは難しい。2035年の技術競争は、「誰が秘密を独占しているか」より、誰が公開された知識を最も速く吸収し、自分のエネルギー、産業、社会へ実装できるかという競争へ近づいている可能性がある。

未来を考えるとき、私は「この国が勝つ」「この国が負ける」という図を作りたいわけではない。むしろ見たいのは、その国や都市が何に依存し、その依存が切れたときに別の道を持っているかどうかだ。

2035年に本当に強い都市とは、一番未来的に見える都市ではなく、外から大きな衝撃が来ても、人々の日常を止めずに済む都市なのかもしれない。

AIと考えた未来図。未来を当てるためではなく、現在を構成している「見えにくい前提」を可視化するために作った写真である。

資料(出典)

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