レトロサウンドのアルバム制作、最良のマスタリングの為に自分でプラグインを作る。

レトロサウンドのアルバム制作、最良のマスタリングの為に自分でプラグインを作る。

小西寛子です。音楽を作っていると、時々「これは音量でも、リバーブでも、EQでもない」と感じる瞬間があります。

音は大きい・・・。でも、前に来ない。左右には広がっているのになあ・・・でも、感情の中心が薄い。きれいにミックスされているのに、どこか身体(心)に来ない。

わたしはアナログレコーディング中心ですが、現代の一般的なレコーディング・スタジオのDAW環境は、とても精密です。音を左右に広げることも、帯域を整えることも、ダイナミクスを制御することもできます。

でも・・・。60年代や70年代のロックやポップスの録音を聴いていると、それとは少し違うものがあります。センターに芯がある。ボーカルや楽器が前にいる。でも、音は窮屈ではない。サイドには空気があり、柔らかく広がり、少しだけ動いている。音全体が、ひとつの物理的な塊のようにまとまりながら、呼吸している。

私はその感じを、ずっと「音場」と呼びたいと思っていました。ただし、それはお化粧のようなリバーブで作る空間ではありません。また、従来型のステレオ・ワイドナーで左右に押し広げる音でもありません。

もっと中心に近いところにある、音の密度、倍音、温かさ、揺らぎ、そしてセンターとサイドの関係そのものです。

今回、たまたま今月末に出そうと思っているアルバム、『風の季節 The Best(仮)』のレコーディングをしている中で、私の音源は、自分で演奏し、オートチューンなどを使わず「生にこだわっている」けれど、昨今の最終的なマスタリング環境で、完全にアナログというわけは行かない。何時も、できあがりでデジタルの音に吸収されてしまう。スタジオの生音を維持できないか?そんなことを考え、アルバム、そのために制作したのが、Cohesion Field 1975 です。

なぜ「1975」なのか

1975 は、私の生まれ年であり、私自身の過去のアルバム名でもあります。だからこの数字は、単に1970年代の音を指す記号ではありません。私にとっては、自分の音楽の原点、声、記憶、録音というものへの感覚、そしてアナログ的な音の温度と結びついた数字です。

Cohesion Field 1975 という名前には、60年代から70年代のロック/ポップスにあるような音場感への憧れだけでなく、私自身が音楽制作の中で大切にしてきた「センターに感情があり、サイドに空気がある音」を現代の制作環境で再構成したい、という意味を込めています。

1975年そのものの機材や特定の録音だけを再現するのではありません。むしろ、私にとっての「1975」は、音楽の中心に人の存在があり、声や楽器が物理的な空気の中で鳴っているように感じられる、そういう音の記憶を象徴しています。

センターを失わずに、サイドを呼吸させる

アルバム用に作った、Cohesion Field 1975 の中心にある考え方は、とてもシンプルです。センターを強く、感情的に存在感のあるものとして保ちながら、サイドに呼吸、ブルーム、そして穏やかな動きを与えること。

私は、音をただ広げたいわけではありませんでした。現代のステレオ処理では、音が左右に広がっても、センターの感情的な芯が薄くなることがあります。ボーカルや主旋律が遠く感じたり、ミックス全体がきれいだけれど少し冷たく感じたりすることがあります。

一方で、昔の録音には、センターがとても強く残っているのに、音が窮屈ではないものがあります。中央に力があり、左右に自然な広がりがあり、全体に人間的な揺らぎがある。Cohesion Field 1975 で、その感覚を現代の制作環境で扱えるようにしたいと思いました。

リバーブではなく、ワイドナーでもない

Cohesion Field 1975 は、リバーブではありません。空間の残響を足して奥行きを作るためのものではありません。

また、従来型のステレオ・ワイドナーでもありません。ステレオイメージを単純に左右へ押し広げるのではなく、センターとサイドの関係を整えるためのものです。主な要素は、次のようなものです。

  • センターの凝集感
  • 左右の柔らかいブルーム
  • テープ的な押し込み感
  • サチュレーション
  • 倍音
  • 低域の温かさ
  • コンソール的なまとまり
  • 微細な揺らぎ
  • 安全な出力制御

これらを組み合わせることで、音を派手に変えるのではなく、音の芯、温かさ、密度、広がりを少しずつ整えていきます。

AI研究と音作りの共通点

私はAIの構造的欠陥に関する研究を行っています。False-Correction Loop、FCL-S、Premise Integrity Blindness など、AIがどのように誤った前提を固定し、どこで止まれなくなるのかを研究してきました。

一見、AI研究と音楽制作は遠いものに見えるかもしれません。でも、私の中ではつながっています。AI研究では、表面上の答えではなく、構造を見ることが大切です。どこで前提が変化し、どこで判断が固定され、どこで安全境界を超えるのかを見る必要があります。

音作りも同じです。

単に「広い音にしたい」「温かい音にしたい」と言っても、それがどの構造から生まれているのかを分けて考えなければ、狙った音にはなりません。広がりなのか。倍音なのか。低域の温かさなのか。センターの凝集なのか。サイドの揺らぎなのか。テープ的な押し込み感なのか。

Cohesion Field 1975 では、音場をひとつの曖昧な効果として扱うのではなく、Cohesion、Width Bloom、Tape Pressure、Saturation、Harmonics、Warmth などに分けて調整できるようにしました。

それぞれを分けることで、音の広がり、密度、温かさ、倍音、押し込み感を、より直感的に扱えるようにしたかったのです。

レコーディング現場から生まれたもの

Cohesion Field 1975 は、机の上だけで考えたプラグインではありません。声優、シンガーソングライターとして、私は長く録音や音楽制作に関わってきました。その中で、現場の音、モニターから返ってくる音、マイクの前に立った時の感覚、歌がミックスの中でどこに立つのか、そういうものをずっと聴いてきました。

レコーディング現場では、音は数値だけでは判断できません。少し前に出た。少し硬い。もう少し芯が欲しい。広いけれど、遠い。温かいけれど、こもっている。そういう微妙な感覚の積み重ねで音が決まっていきます。Cohesion Field 1975 は、その感覚をプラグインの形に落とし込む試みでもあります。

音場を、もう一度「感情のある場所」にする

私が作りたかったのは、単に便利なエフェクトではありません。センターに私がいる。サイドに空気がある。ベースさんの指の優しさや、ドラムさんの足で伝えるキックの低音に温かさがある。バンド全体で、音全体に、少しだけ生き物のような動きがある。

そういう音場を、現代の制作環境で扱えるようにしたかったのです。だから、Cohesion Field 1975 は、リバーブでも、従来型ワイドナーでもありません。密度があり、センターに芯があり、左右に柔らかく広がるアナログ的な音場を作るためのプラグイン。

心から書いたわたしの詞、曲、歌、演奏、全てのリアルをレトロ感たっぷりの思い出の世界におくるために・・・。

Comments

No comments yet. Why don’t you start the discussion?

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です