コロナ禍で注目されつつある稀少素材のギター。

(写真:Photo by Wikimedia Frank Vassen – Flickr: Allée des Baobabs near Morondava, Madagascar, CC BY 2.0)

 小学校の音楽の授業で使用する縦笛や鍵盤ハーモニカなど教材用の楽器の多くは石油製品。毎年新しい児童が使いはじめるという点においてはとてつもない生産数です。

 供給の面や製作コストの面を考えるとプラスチックでつくる方が容易であるし、仮に縦笛が木材で製作されていたとしたら製作時間もかかりとても高価なものになるでしょう。しかし、児童が成長して笛が必要無くなったときの廃棄においては木という素材の方がゴミ問題(環境)を考えるとプラスチックよりは優秀かもしれません。

 筆者はシンガーソングライターですから自分で詞を書いて歌い、伴奏を演奏するためにアコースティック・ギターを弾きます。弾き語りというシンプルなスタイルはシンガーソングライターには最適なスタイルで、ギターが一本手元にあれば大抵の曲は作れ、それを持ち人前でコンサートなどの営業もできます。

 ところで市販されているギターやピアノ、バイオリンなどの素材はほとんどが木材で作られていますが(トランペットなどは別ですが)、この木材は一般にホームセンターにあるようなラワンやベニヤ、桐などではありません。

 ギターやピアノに使われる素材の多くは稀少な木材(稀少品種だったり絶滅危惧種だったり)でつくられています。理由はいうまでもなく「音質や素材の質感」などですが、その他にも工作のしやすさ変形のしにくさなどのあらゆる面で、優秀な素材の特殊な木材が使用されています。

 優秀な木材になるほど生息地や生産数もかぎられ絶対数は少ないです。しかしながら、ギターメーカーなど商業的には少ない収獲で広い利益を生み出すという部分でどうしても乱獲される対象になり、地球上でも稀少な木材をとりすぎて絶滅寸前になってしまいました。

木材は大自然にある天然資源ですが、楽器を製作できる大きさに育つには数十年の気の遠くなる時間が必要になります

・・・そこで絶滅に瀕した木材や動植物を守ろうと『絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約』通称ワシントン条約が締結され、我が国も1980年に批准しています。

弦、糸巻、フレット以外のほとんどが植物のいのち

 さて、ここからは条約で輸出入が禁止された木材のお話。アコースティックギター本体側面やバックボードにはとても美しい木目が特徴のブラジリアン・ローズウッド(ハカランダ)が使用され、それが禁止のため代用で使われていたニューハカランダと言われていたココボロも2013年に禁止になりました。

 その後の2017年からローズウッド(全種)とブビンガ(ブリッジなどに使われる)と呼ばれる木材、最近ではボディだけではなく、弦を指で押さえる部分(コードや音程)指板、ブリッジと呼ばれるギターホール穴の下にある部分や弦を押さえるピンなどに使われるエボニー(黒檀)という木材が使えなくなりました。

 このエボニー、マダガスカルの貿易報告書 Timber Island / The Rosewood and Ebony Trade of Madagascar によると、まとめると2010年〜年2015年で少なく見積もっても保護区内で35万4千本以上の(主にローズウッド)木が違法に伐採されそのうち152437tの丸太が違法に輸出された。

Madagascar’s precious timber, represented by the genera of Dalbergia (rosewood and palisander) and Diospyros (ebony), are species of hardwood that have become much sought after in the last few decades for the manufacture of musical instruments in Europe and the US and for the manufacture of furniture in Asia. Starting in late 2008 and early 2009, the moist forests, home to the greatest wealth in species of precious timber have been subject to unprecedented high levels of logging, with hundreds of thousands of trees cut down in protected areas despite their protected status. Data collected from documents, stakeholder consultations and field surveys has shown that between March 2010 and March 2015 at least 350 430 timber trees (mainly rosewood) have been cut down in protected areas, and at least 1 million logs (152 437 t) have been illegally exported from Madagascar. 

Timber Island : The Rosewood and Ebony Trade of Madagascar

 ところで、木材以外にもギターのネック部分の弦をおさえるナット、ブリッジの弦穴から出て来た弦が乗るサドル、弦を止めるブリッジピンなどは削られた象牙で作られていた時代もありました。

 象牙はそれ自身が規制対象ではなくアフリカゾウなど象牙を持つ動物自体が規制になっており、加工品や骨の一部まで含む全ての部分がワシントン条約の規制の対象です。加えてウミガメ(タイマイ)もです。弦をはじく(爪)ピック、ピックガードなどのべっ甲も規制されているのです。

 昨年、ギターメーカーのFender社がスワンプアッシュというトネリコ属の木を使うギターの製造を中止した。テレキャスと言うモデルやベースなど、これまでよく使われてきた素材で今後は高級品のみ製造を残すということだ。楽器に供する木材は地球温暖化、気象変動で危機が危ぶまれている。

 品種も限定されているので元々数が少ない上に木が育たないだけではなく切る木も無くなってきたり、生息地が水没してしまったり森林火災で焼けてしまったり、太陽光等の発電のために山を削ってしまったり、様々なあらゆる原因で世界各地の部材、素材としての木材の値段が高騰している。

 いまのうち財産として一本お気に入りのギターを手に入れておくのも良いだろう。

”そんな素晴らしい木材から奏でる本日お薦めしたい曲は、筆者が影響を受けたバンドの一つ YouTube : bread / Guitarman CDも紹介しておきましょう。こういった楽器から生まれてくる生サウンドは良いですよね。”

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